いつかの面影
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祈願」
なぬ。
「具合、悪いのか?」
「少し」
好奇心が、先走ったことを少しばかり反省した。
人に不幸を語らせるのは、あまり気持ちのいいことではないわけで。
「……早く、快よくなるといいな」
そんなことぐらいしか言えない俺が少し恨めしかったが、タバサがこくりと頷いてくれたのは幸いだったと思う。
顔を上げたタバサとの間に、なんとも言えない微妙な空気が流れる。
ヘタなことを言うとまた地雷を踏んでしまいそうで、動くに動けないわけで。
硬直を続ける俺たちだったが、そんな空気はタバサの何気ない一言で破られた。
「あなたは、どこから来たの?」
なんとも唐突な話題ではある。
あるが、タバサなりにさっきの気まずさをなんとかしようとした結果だろうからそこは気にしない。
ちゃんと空気も砕けてくれたしな。
で、この質問の場合はまあ普通に考えれば哲学的な意味じゃなく、どこの生まれかってことだろう。
幸いにもそれはもう散々に訊きかれ慣れたことだったので、才人はさらっと答えることができた。
「魔法が無くて、代わりに科学って力のある、ずっと遠い国だよ」
「カガク?」
それって何? と首を傾げるタバサ。
前にルイズに同じことを聞かれた時は答えに窮きゅうしたが、今は丁度いい答え方を思いついている。
「こないだの『破壊の杖』みたいなものを作り出す力だよ。武器から日用品までな」
タバサは、そう、と言いたそうな顔になってなにやら頷いている。
どうやら、納得してくれうまくごまかせたらしい。
やれやれ、と胸を撫で下ろしかけたところで、思わぬ方向から追撃が入った。
「貴族がいないというのは、本当?」
「え、あ、ああ。とっくに旧時代の遺物になっちまってるよ。少なくとも、俺の国はな」
ちょっとどもっちまったけど、まあボロは出なかった……と、信じたい。
実際、貴族の実態なんて現代日本人にわかる筈もねえし、こっち来るまではどういう生活してたのか想像したこともなかったわけだ。
食事のマナーが意外にテキトーだったのにはガチ驚いたぜ。いや、上品に食べてる奴も中にはちゃんといたけど。
しかし、なんだってそんなことを訊くんだ?
タバサの微かな声が鼓膜を揺らしたのは、ちょうどそう言おうと口を開いたときだった。
「少し、羨ましい」
そう聞こえた気がするのは、俺の聞き違いか、はたまた勘違いか。
ちょっとばかり現実逃避に入りかけたが
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