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月にいる男
第一章
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                月にいる男
 ポーランドにいる魔術師トファルトフスキは殆どの者が思うことだが死にたくなかった。それでだった。
 彼は悪魔を召喚してこう言った。
「こうした契約にしたい」
 黒いひげを端正に整えた細面の顔で言った、目は青く肌はかなり白い。黒髪は丁寧に整え服も立派だ。
「君が私の魂と肉を手に入れる場所はローマだ」
「あの街か」
 悪魔は山羊の角を生やしているが外見は人間とあまり変わらない、赤い髪と鎌髭が目立ち背はかなり高い。黒い学者の服を着ている。
「あの街で会えばか」
「その時君は私の身体と魂を得られる、しかしだ」
「それまではだな」
「私は君に富をもたらし死なせない」
「我々がローマで会うまではだな」
「そうした契約にしたいがどうだ」
「いいだろう」
 悪魔はトファルトフスキの申し出をよしとした。
「ではな」
「その様にだな」
「契約をしよう」
「ではローマで会おう」
 こうしてだった。
 トファルトフスキは悪魔と契約した、そうして富と不老不死を手に入れ人生を満喫した。だがその彼に対して。
 その富と不老不死をもたらす悪魔は百年位して彼に言った。
「人間の寿命は幾らか知ってるか」
「東の方で五十年と言ってるそうだな」
 トファルドフスキは美酒と美食に囲まれた中で悪魔に応えた、先程まで遊郭で遊んでいたし住んでいる屋敷も立派だ。
「そうだな」
「あんたはもうどれだけ生きている」
「まだ百数十年か」
「五十年どころじゃないぞ」
「そういえばそうだな」
「軽く言うな、契約を覚えているか」
「ローマで会えばな」
「あんたは俺に魂と身体を渡す」
 そうなるというのだ。
「つまり今度はあんたが俺の従者になるんだ」
「それが契約だな」
 自分達のとだ、トファルドフスキは平然とワインを飲みつつ応えた。その盃は黄金で出来たものである、
「覚えているぞ」
「なら何時ローマに行く」
「そのうちな」
「そのうちと言って何十年だ」
「安心するのだ、そのうち行く」
 トファルドフスキは笑って答えた。
「何しろ私は貴族だ」
「誇りがあるというのだな」
「その辺りの者と一緒にしてもらっては困る」 
 それこそというのだ。
「だからだ」
「約束は守るな」
「何があろうとな」
「そうだな、だから俺もあんたと契約したが」
「私は言ったことは守るぞ」
「しかし実行する気はあるのか」
「ローマに行く時が来ればな」
 その時はというのだ。
「契約を守ろう」
「その言葉は絶対だからな」
「わかっているさ、それでだ」
「今度は何だ」
「私は旅行に行きたくなった」 
 今度は香辛料を相当に利かせた肉料理を食べている、ポーランドどころか欧州では金一粒と言われて
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