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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
流氷の微睡み4
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あ」
「先生が助けに来て、暴れてる私を抑えてくれて、全然嬉しくなかった」
「ああ」
「すごく……すごく、胸が締め付けられて苦しかった。こんなことまでしてくれる大人は初めてだったのに、その大人に子供の嫌な所、駄目なところばっかり見せた。先生もまた美音たちをきらいになって見限るんだと思った。今も……自分勝手な美音たちに頭を下げる先生を見てて、胸が痛いの」

 それは「わかる」などと安易に同意を示すことの出来ない、彼女だけの世界。
 OWなどなくとも誰もが心に抱く自分だけの認識だ。

「先生。ううん、先生たちにお願いがあります。美音たちにもう一度だけ……」

 そこで一度言葉を区切った美音は、今度は美杏に促されることなく言い切る。

「もう一度だけ、大人として先生を信じさせてください」
「……お願いされなくても、守って見せるさ。だから次からは遠慮なく俺を呼べよ」
「完全に信頼した訳じゃないんだからね……き、期待を裏切らないでよ!?」
「大人の意地を見せてやる」

 美音の頭を優しく撫でると、美音は黙ってそれを受け入れた。
 美杏もどこか物欲しそうな顔をして近づいてきたので、同じように撫でる。
 二人はしばらく無抵抗にリックの手を受け入れ、そしていつもの能天気そうな顔に戻った。

「じゃ、ホームルーム急ごうよ先生!みんな待ってるよ?」
「大人の遅刻はカッコ悪いぞ〜!!」

 双子が息ぴったりにリックの両手を引っ張る。その顔は張り付けた笑みというよりは、構ってほしくて悪ふざけしているように見えた。

「って、何でリックだけ引いて私は引かれないの!?」
「そこはそれ、助けたのはあくまでリック先生だし?」
「あれあれ〜?ルーシャ先生ったらもしかして妬いてる〜?」
「くっ、今ほど生徒が憎いと思ったときはない……!!リック!休み時間に二人の倍は私を愛でてよね!?」
「対抗意識を燃やすなバカタレ」

 と、廊下の物陰から更に見覚えのある生徒が現れる。
 エイジ、エデン、悟、永海だ。事の成り行きをずっと見ていたらしい。

「先生ずるい。私が先に大人論争を二人に吹っ掛ける予定だったのに!」
「エデン、目的と優先順位が倒錯してる」
「やれやれ、お前らの為にわざわざ四人をデバガメしたんだから昼は奢れよ。割に合わん」
「これでようやく一件落着ってか?っとと、急いで教室に戻らないと先生に叱られるかも!者ども急げ!あの暴力教師より先に教室へ走るのだぁ〜〜!!」
「廊下を走るな!……まったく、元気な奴らだ」

 リックが笑う。つられて周囲も笑顔になり、悟まで呆れたように笑った。

 ここに至ってようやく静観学園の日常は復活したのであった。
 
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