32部分：三十二．九月廿日
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三十二．九月廿日
三十二．九月廿日
九月二十日のことです。ある人にお供して夜明けまで月を見上げながら歩いていた時にその人がふと思いだしたことがありまして案内をお願いしてある家の敷地の中に入りました。庭は滅茶苦茶に荒れていて夥しい露に覆われていましてわざとらしくない焚きものの匂いがしっとりと漂っていて隠遁している様子が只事ではありませんでした。
一緒にいた方は適当においとましましたが自分としましてはこの様子があまりにも素敵で気になって仕方がありませんでしたので草葉の陰から暫く庭等の様子を暫く見学させてもらっていたところ家の御主人は門の戸を少しだけ開けましてそのうえで月を見ているようでありました。すぐに引き篭もって鍵をかけたとしたら嫌な感じがしたかも知れません。まさか覗いている人がいるとは思ってもいないでしょう。こういった行為はただ日々の行いから滲み出るものであります。
こうしたご主人でしたがこの時から暫くして亡くなられたそうです。人が死ぬのは常ですがこのことを聞いてこの二十日のことを思い出すのであります。風情というものもこの世のこともわかっておられるかけがえのない方でありましたのに亡くなられるとは。人が死ぬのは運命なのですがそれでもお亡くなりになられたと聞くとやはり悲しさと淋しさが心の中にやって来るものであります。
九月廿日 完
２００９・５・１８
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