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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
流氷の微睡み3
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ない。責める訳でもない。ただ、どこの者とも知れぬ珍妙な存在を胡乱気に見つめるような、そんな顔だった。

『継承者たる貴様の言を信じてこそ任せたが、そこな男が使い物にならぬようならば即刻引き剥がすと言った事、忘れてはおるまいな。継承者にとって鉄脈術など条件に入らぬぞ』
「お言葉ですが、我ら幾星霜の歴史を重ねた天掛流において『斬った』のは初代様と天馬のみ。実績で言うならば、既に彼の名は――」
『もうよい。ふん……まぐれでなかった事を祈っておるよ、元天掛流道場門下生……落ちこぼれの凪原天馬よ』

 込み上げる不快感に耐えられず、天馬はとうとう口を開いた。

「その落ちこぼれに尻を拭わせたのはどこの誰だ?」
「天馬、それは」
『それだけの大口が効けるのなら、次に会う頃には私から一本取ってみせるのだな』

 最後に、岩の如く動かなかった口元を微かに吊り上げた天掛(あまがけ)尊士(たけし)の姿を最後に映像と音は途切れた。

「……訓練、始めようぜ」
「天馬……そうだな。余りある気力に精神を振り回されるなよ」

 互いに木刀を構え、腹の底に力を入れて大地を踏みしめる。
 朧。小柄な体躯からは想像もできない神業的な剣士を追いかけると決めたのは天馬で、それを受け入れたのは朧だ。そこにたがえる意志などありはしない。それでも、落ちこぼれというあの言葉が、どうしようもなく天馬のプライドを抉った。

「天馬」
「なんだよ」
「見返すぞ、あの男を」
「当たり前だっ!!」

 あの夏に放った一撃に、一歩でも近づくために。



 = =



 その日、リック・トラヴィスは若干不機嫌だった。
 テロ問題の後処理も十分に面倒だったのだが、それ以上に彼を不機嫌にさせていたのが先ほどの職員会議だった。

『君の独断で入れた課外授業が今回の無用な被害を生んだのではないかね?』
『テロリストを逃がしたことで学園の威厳が失墜するとは考えなかったのか?』
『君は外国人だったね。君が手引きしたのではないのか?』
『これだから外国人を雇うなどと……』
『学園長、もはやこれ以上特組などという制度を存続すべきではありません』

 生徒の身を案じることは、この国では咎らしい。そう告げてやった。

 リック・トラヴィスは静観学園の教職員内では嫌われ者、或いは鼻つまみ者として扱われている。
 正規の職員試験を通さず教師となったこと、特組という特質的なクラスを任される程度に学園長から信用を受けていること、当人自身が桁外れな能力を持っていること……しかしもっと根本的な所にある感情は、やはり「なぜ日本の学び舎に外国人がいるのだ」という部分に集約されている。

 日本皇国という国は、世界に現存する最古の国である。その統治のあり方に
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