銀河帝国、ホルスト・ジンツァー大佐
両雄の邂逅
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フェザーンで鋼鉄の砦を奪取した魔術師と密かに会い、腹を割って話し合った僕の上司は。
蒼氷色の瞳と黄金の髪、絶世の美貌を兼ね備える野心家の許に賓客を誘った。
ジークフリード・キルヒアイスの乗艦を審査、密入国者を逮捕する度胸なんて誰にも無い。
エル・ファシルの英雄は密かに帝国の領域を横切り、ラインハルトの私室に案内された。
ヤン提督は穏やかな口調で明確に君主制の長所、短所を指摘したんだけど。
不敗と常勝の名を冠する両雄は、時を忘れて話し込み、包括的な戦略論を戦わせた。
ローエングラム侯爵は話が一段落すると慧眼を讃え、優雅に握手を求めたんだけど。
賓客の表情が急に曇り、予想外の言葉が溢れた。
「私は貴方の仰る様な慧眼の持ち主、貴方に匹敵する様な優れた戦略家ではありません。
もし、そうなら、帝国領侵攻作戦の実施を阻み、数千万人も犠牲者を出さずに済んだ。
士官学校に入学の動機も、学費が免除される、ただ、それだけです。
本当は、軍人にならなければ良かった。
今でも、そう思っています。
イゼルローン要塞を奪取して、すぐに辞表を出したんですけどね。
士官学校時代の校長に丸め込まれて、退役の機会を逃がしてしまいました。
アムリッツァ星域会戦で包囲網を破る事が出来たのも、僥倖に過ぎません。
戦死者の遺族から人殺し、と罵られずに済む無名の一市民になりたい。
落ち込むと酒に逃避する癖が抜けず、身内から幾度も叱られましたけど。
帝国領侵攻作戦の後始末を見て、痛感しました。
私を英雄に祭り上げ、責任転嫁に汲々とする最高評議会に先は無いと思います。
大袈裟に騒ぎ立てて無理難題を巧みに押し付け、自分の責任を誤魔化す事ばかり考えている。
私利私欲を貪る輩を叩き出し、同盟を建て直せと唆す男も居ますが。
責任を押し付けられるのは、もう沢山です。
私は、独裁者になりたくない。
一刻も早く軍隊を退役して、年金生活に入りたいのです。
ありのままの自分になりたい、それが唯一最大の願望なんですよ。
誰も、信じてくれませんけどね」
どう反応すれば、良いんだろう?
まさか、こんな、愚痴、と取られかねない様な言葉を聞かされるとは思わなかった。
だけど、嘘を吐いている様には、全然、見えない。
これって、本心なのか?
蒼氷色《アイス・ブルー》の瞳が宙を彷徨い、切れ者の腹心に援けを求めたけど。
キルヒアイスも咄嗟に言葉が出ず、ローエングラム侯爵の眸には『回答不能』と映った。
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