第五章
[8]前話
「だからよい」
「このままで」
「そうだ、ではアムピアラオスのことだが」
今死んだ彼のことを再び話した。
「どうなったかな」
「後で、ですね」
「我が兄弟ハーデスに聞こう」
「それでは」
ヘラも頷いた、そしてそのアムピアラオスはというと。
冥界においてだ、そのハーデスにこう言っていた。
「あのまま妻に裏切られた無念のまま背中を貫かれるよりも」
「あの様にしてか」
「大地に落ちて死ねた、ですから」
「満足しているか」
「はい、無念はそのままでも」
それでもとだ、アムピアラオスは冥界の主の玉座にいるハーデスに答えた。
「そこは予言通りではなかったですね」
「我が兄弟ゼウスの計らいでな」
「そのこと感謝します、私は預言通りに死にましたが」
「そなたの妻との約束を守った結果な」
「予言そのままに死なず苦しまずにすぐに死ねたこと」
大地に飲み込まれてというのだ。
「心より有り難く思っています」
「そうなのか」
「はい、では」
「うむ、これからそなたはな」
ハーデスはアムピアラオスに話した。
「この冥界で暮らしてもらう」
「それでは」
「そのことは誰もが同じだ」
「予言はもう、ですね」
「ここでは関係ない、ではな」
「心安らかに」
「暮らす様にな」
「そうさせて頂きます」
アムプラアオスは笑顔で応えた、そうしてだった。
静かに冥界の中に入った、それから彼は予言をすることなく冥界で過ごした。
そしてだ、冥界で再会したアルゴー号やテーバイ攻めで共にいた友達に言った。
「ここでは予言をする必要がない」
「だからか」
「それでか」
「そうだ、約束をしても誰が信じられるか見極めた」
このこともあるというのだ。
「死ぬまで。そして冥界に来てもじっくり見てな」
「そうしてか」
「そのうえでなのか」
「それもわかった、だから信じられる者とだけ約束をするしな」
「そのこともあってか」
「予言のこともあって」
「ここでの暮らしは実にいい」
澄み切った笑顔でいうのだった。
「もう信頼出来ない相手への約束に苦しめられることも予言に縛られることもない」
「だからか」
「これ以上いいことはない」
「この冥界にいると」
「そうだ、今の私は生きている時よりも幸せだ」
こう言うのだった、そうして冥界での暮らしを楽しむのだった。ここでの彼の顔は実際に生きている時よりもずっと明るいものであった。
約束と予言 完
2018・7・15
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