episode3『怯える魔女と激昂の鬼』
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食欲をそそられないそれを、腹を埋め尽くす飢餓感を抑え込むためだけに食べた。
食べて、食べて、もう腹の中に入らないというところまで食べても尚。腹の中のものを吐き出して、また腹がいっぱいいっぱいになるまで食べても、それでもこの飢餓はまるで勢いを衰えさせようとはしなかった。
よくよく考えれば、当たり前の事だったのだ。鬼が人間の食事で満足なぞするものか。こんな罪深い鬼が腹を満たすために貪るものなぞ、相場が決まっている。
分かっている。
この飢餓を満たす事が出来るのは、きっと――ヒトを喰らった時だけなのだろう、と。
「――あちゃあ、話には聞いていたけど……これは重傷だねぇ」
「……ぇ、ぁ……?」
唐突に頭上から降ってきた声に困惑して、瞳だけでも視線を上げる。
そこに居たのは、大柄な体――といっても昼間の男ほどではないが、185はあるだろうか――の男だった。艶のある黒髪をオールバックにして無精ヒゲを生やした、気怠げな表情の男。白いシャツに緩めたネクタイと、その上からトレンチコートを纏ったその姿は、辛うじて正装に見えなくもない。
「おじさんと同じタイプ……それも鬼か。OW深度も余裕で『振鉄』……こりゃ酷い、むしろよくこれまで生きてこられたね、ビックリするよ」
「……だ、れ?」
「うん?あぁ、おじさんはねぇ、『白崎典厩』ってんだわ。昔の武将さんからとった名前らしい、言っちゃアレだが変な名前だろう?……なんて、冗談言ってる場合でもないか」
「……あ、居た!テン!あんた、見つけてたなら呼びなさいよ!」
男が――典厩がそう自己紹介を済ませると同時に、廊下の奥からそんな声が聞こえる。掠れる目を凝らせば、その声の主らしき少女の姿が目に入った。薄ぼんやりとはっきりしない視界でもようやくその姿が判別出来るようになってきて、直後、閉じかけていた瞳を見開いた。
女は、魔女だったのだ。
彼女は銀の長い髪を靡かせて典厩の横に並び立つと、シンの姿を見下ろす。そのまま驚いたように一歩後ずさった少女は「うへぇ」と呟いて、隣でニコニコと笑う典厩の脇腹に肘を叩き付ける。
「ほら、さっさと準備する。一応最悪の事態の想定はしてたけど、一歩手前ね……手早く終わらせましょ」
そんないかにもコンビであるといった様子で会話する二人に、嫌な汗が噴き出してくる。魔女と二人組で行動する者など、大半の場合決まっているのだ。
「……ま、さか。製鉄師、なのか」
「うん?あぁ、そうだね、一応そういうことになるかな」
男は、さも当然と言った様子で、こくりと頷いた。
「――っ!」
まずい、まずい、ま
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