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【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
滴る氷柱3
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に、鍵はかかっていない。エイジは躊躇いもなく中に入った。
 決断したのではない。入るなという意志表示を見かけなかったので、当然のように入っただけだ。
 エイジは部屋に危険がないと判断するとずけずけ入ってしまう悪癖がある。エデンの着替え中に部屋に入ってしまい盛大なビンタと説教を受けて以来、脱衣が行われる可能性のある場所では細心の注意を払って確認しているが、危険も脱衣の可能性も感じない場所にはこの通りだった。

 道場内はいくつかの部屋に分かれていた。その中の二番目の襖が開き、中から声と音が聞こえる。

「はっ、はっ……!」
「また攻撃に集中しすぎて気の緩みが出ているぞ、天馬。ちぇいッ!!」
「ガッ……!!くぅッ!!」

 衝突する木と木の放つ、鋭く甲高い音。
 板張りの地面を踏みしめる音。
 そこには、日常生活には存在しない独特の緊張感が張り詰めている。

「そうだ、間合いを意識しつつ構えをもっと体に染み込ませよ。箸を持つときでも自然と構えを辿るようになれ。でなければ天掛流を超えるなど夢のまた夢……」
「御託はいい!次ッ!!」
「確認などいらぬ!来いッ!!」

 そこには、木刀を握り朧に果敢に攻める天馬と、それを顔色一つ変えず捌く朧がいた。
 剣道の練習であろうことは察するが、どうやら天掛流の本格稽古をしているようだ。

 天掛流――より正確には天掛一刀流剣術。武士の時代、群雄割拠の時代、刀の時代と剣術を深く追求した剣士たちは数多おれど、日本最古にして頂点の流派と言わる天掛流の源流が廃れることはなかった、とは父の殿十郎に聞いた話だ。
 嘗て門外不出だったそれは今では一般人も学ぶ機会があるそうだが、稽古は苛烈を極め、100人中1人残れば多いとまで言われているそうだ。

(すごい。朧さん、剣術には一日の長があるなんて言ってたけど、あんなに隙も無駄もない人は初めて見る)

 天馬は身長も筋肉も平均を上回るほど鍛えているし、恐らく今から剣道の高校大会に出て優勝を狙えるほどには鋭い動きをしている。
 しかしそれに対し、小柄な分不利なはずの朧は天馬の動きを完全に把握したうえですべて受け止めている。躱すことも容易なのにわざと受け止めていることに疑問を覚えるが、その受け止めもすべての衝撃を逸らし人体のダメージを最小限にする理想的な動きをしている。天馬からすれば、攻撃の威力をすべて打ち消されているように感じる筈だ。

 エイジは剣の道を詳しく知らないが、朧の剣術は「魔法」の域に達していると感じた。
 すなわち、通常の常識の範疇を超えた非常識なまでの体技を用いている。

 一般的に、魔女と製鉄師が揃っていれば同じ条件の製鉄師がいなければ倒すことは出来ないとされているが、彼女は例外だ。恐らく彼女は、契約などしなくともそ
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