暁 〜小説投稿サイト〜
【ユア・ブラッド・マイン】〜凍てついた夏の記憶〜
凍てついた夏
[3/4]

[1] [9] 最後 最初 [2]次話
神のダメージが肉体にまで変調を来すほど重篤なものを指す。

 医学的には、この症状は正確な形で立証されてはいない。
 ただそういった事象が医学的見地を通り越して現実に出現し、医学者たちを嘲笑うように発生し続けているだけだ。
 彼が寒いと言っているのは、彼の歪んだ世界認識によって引き起こされているのだろう。体温まで下がっているという症例は聞いたことがないが、マイナス20度の冷凍庫の中でも人間は思い込めば汗だってかけるし、思い込みでショック死することもある。自己認識とは、そういう危うさを内包したレンズなのだ。

 ともあれ、私が彼に医者がしてやれることなど一つしかない。
 政府にAFSの疑いがある患者が現れたことを報告し、国選魔女制度の適用を求める。たったそれだけだ。

 通常の場合、OI体質は日常生活でそこまで顕在化するものではなく、多くが義務教育の一環として行われる素養検査にて知る事となる。彼は小学校の頃に既にOI体質である事が判明しているものの、現在確認されている段階では症状を表す深度は「埋鉄(ベリード)」――数字で言えばゼロだ。日常生活には支障がなく、能力的にも一般人と大差ない。それがここまで深化することは通常では考えられない。

 普通なら症状がここまで甚大になる前にOI体質の持ち主は聖学校に入学して問題解決を図る。しかし、稀も稀なことではあるが、日常生活に支障をきたす程の症状が突然出てしまった場合、人道的見地『という名目』で患者は政府に保護され、特例として症状緩和の為にすぐさま魔女をあてがって契約を結ばさせられる。でなければ日常生活を送れないからだ。
 だが実際には、それほどの症状を出す患者は非常に高い鉄脈術の素養を持っているから是が非でも見逃したくない、というのが政府の本音だろう。覇権を争う各国に対抗するための製鉄師と魔女の絶対数が圧倒的に劣る我が国では、遊ばせる戦力はない。

 国は決して素質を持つ者に強制はしない。ただ世論を操作して製鉄師と魔女をひたすらに美化、優遇しているかのような喧伝文句を垂れ流し、自然と誘蛾灯に誘われる者を虎視眈々と待っているのだ。実際の所、日本で直接海外からの表立った侵略行為は『今のところは』少なく、殉職者も殆どいない。しかし超大国が水面下で小競り合いを続ける現状、むしろ権力の一極集中が戦争のリスクを高めているとも言える。

 患者を見やる。今も時折受け答えは出来るが、震えながらベッドの上でうわごとのように「寒い」と呟く弱々しい少年は、自分が政府へ連絡することでいつか戦争の参加者となるかもしれない。

 医者が死地に子供を送り出す――これほど酷い話があるだろうか。
 出来る事なら、戦争の参加者となる以外の選択肢を用意したい。医学の力で彼の過剰なまでのイメージ力を抑制し、幸せで普通な生
[1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ