暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 16
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プを鷲掴んで飲み口を唇に宛てがい、ぐいっと力強く傾ける。
 声にならない悲鳴を上げる仲間達の、涙が滲む視線を一身に集めた漢は、言われた通り十秒間をやり過ごしてから飲み込み。
 いざ参らん! とばかりに、匙で掬った塩糊を、大きく開いた口の中へと勢いよく投げ入れた。
 そうして

「…………………………………………あれ?」

 小刻みに上下する、濡れた睫毛。

「しょっぱくない。てか、美味しい……?」

「?? なんだって?? そんなバカな……っ??」
「あの強烈な塩辛さを感じない、だと??」

 目を点にした漢の呟きに、本日何度目かの衝撃を受ける騎士達。
 一口含めばもれなく味覚障害を引き起こす凶悪なしょっぱさだった筈。
 と、疑いの眼差しが集まる先で、漢が再び匙を引き寄せる。
 開いた唇を閉じ、歯と歯を何度も噛み合わせ。

「……食感はアレだけど…… やっぱり、美味しい」

 喉の奥へゆっくり滑り込ませた物の代わりに出て来た言葉は。
 微妙な含みはあれど、紛れもなく賛辞の類い。
 漢が勇敢な行動と引き換えに得たものは、何故か美味しく感じる塩糊(しおのり)と、食堂内に満ちる男達のどよめきだった。

「次期大司教様……これは、いったい」
「私が作った、味覚を誤魔化すお薬の一つです」
「味覚を誤魔化す、薬?」
「ええ」

 近くのテーブルにポットを置いたプリシラが、にっこり笑って頷く。

「子供達が作る料理は大抵、味が濃かったり薄かったりするので、調整用に常備しているのです。皆様にお配りしたのは、塩味を感じにくくさせる物。その水を口に含んだ時、酸っぱさを感じましたでしょう?」
「は、はい。わずかに、ではありますが」
「塩味には、酸味が有効。ですから、酸味が強い食材と調味料の成分に手を加えたこのお薬で、塩味に対する防御膜を口内に張ったのです」
「な、なるほど。ですが、それだと塩辛さを感じなくなるだけですよね?」

 塩味が薄くなるだけじゃなくて、明らかに美味しくなってるんですが。
 と言いかけて、漢の目線が宙を泳ぐ。
 子供達はまだ食堂の出入り口付近に居る。
 不用意に不味い、味が悪いなどと口走ってしまったら、彼らにも聞こえてしまうかも知れない。悲しませてしまうかも知れない。

 客観的に見て、これまでの態度が既に感想になっている事実はさておき、思いやりを忘れない紳士達に、プリシラは笑みを深めて再度頷いた。

「サラダやスープに関しては、野菜本来の香りや雑味、原形が失われるまでじっくり煮込んで引き出された甘味や旨味が消滅したわけではありません。貴方の口内に残った酸味薬の成分が塩味をまろやかなものに変えたことで、隠れてしまっていたこれらの味に気付けたのです。見た目と、使用した塩の
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