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徒然草
112部分:百十二.明日は遠き国へ

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百十二.明日は遠き国へ

百十二.明日は遠き国へ
 明日遠い場所に旅立とうとしている人に対して腰を据えなければできないようなことを誰が言いつけるでしょうか。突然の出来事への対処に追われている人や不幸に嘆き悲しむことしかできないような状況の人はそれこそ自分のことで精一杯でありまして他人の出来事や祝いごとを見舞うこともないでしょう。見舞わないからといって薄情な奴だとその人を恨む人もいません。えてして老人や病で寝たきりの人や世捨て人といった人もこれと同じであります。
 世間での決まりごとというものはどんなことでも不義理にはできないものであります。世間体もあるからと知らないふりをするわけにもいかずこれだけはやっておこうと言っているうちにやることが増えるだけでして身体にも負担がかかりそのうえ心にも余裕がなくなりその一生を雑務や義理立てに使い果たしてしまって無意味に人生の幕を閉じることになります。既に日が暮れてもその道のりは遠いものです。人生というものは思い通りにいくものではありませんしもう既に破綻していたりするものです。本当にいざという時が来てしまったならばその時は全てを捨て去るいい機会であります。仁義を守ることなく礼儀について考える必要もありません。世捨てになってしまったことの真価を知らない人からおかしいと言われようとも変わっていると呼ばれようとも冷たいと批判されようとも言いたいように言わせておけばよいのです。万が一責められることがあってももう聞く耳さえなくなっているものです。


明日は遠き国へ   完


                 2009・9・3

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