『どうかこんな日常が』
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別の世界に行った以上はアルゴが店に入り浸ることもなくなるだろうと。正確に言えば、もっと面白い情報を探しに行くのだろうと……残念なことに正解だったらしく、アルゴはやれやれと肩を竦める。
「勘違いして欲しくないから言うゾ? 別にここがイヤだったってわけじゃないからナ……むしろまあ、楽しかったヨ」
「今日は出血大サービスだな。どうした?」
「……フン。で、そんな出血オネーサンに何が聞きたイ? 一生に一度のことだからナ、スリーサイズとかにしとくカ?」
「出血オネーサンって言い方やめろ」
アスナたちの反応から察するに、アルゴはアインクラッドからアバターを引き継いでいるらしく、つまり体格やスリーサイズも現実と同じ――などという下らない思考を、ショウキは高速で脳内から削除しながら。別れの選別ついでのつもりか、何やら教えてくれるそうなので、先の下らない思考の代わりに何を聞こうかと一瞬。
「アルゴは……何がしたいんだ?」
「また漠然とした質問だナ」
かのデスゲームとなった浮遊城を初期から生き残る腕前にもかかわらず、キリトやアスナのように先頭に立つことはなく、あくまで情報屋という裏方であり続けて。今回の件でも、誰よりも早くプレミアの存在に気づいていただろうに、自ら接触することなくサポートに回っていて。そんなショウキの漠然とした思いがそのまま口に出ていて、やはりアルゴは困ったように笑う。
「そうだナ……せっかく夢のファンタジー世界に来たんダ。そんな世界に相応しい、英雄譚が見たくなるだロ?」
「自分が英雄になる気はないのか?」
「趣味じゃないナ。ま、お膳立てぐらいはやってもいいゾ?」
ファンタジー世界に相応しい英雄譚のお膳立て。どこまで本気か分からないような口調で、アルゴは恐らく本当の理由をうそぶいた。浮遊城アインクラッドの物語から――設定のないNPCが自我を手に入れる旅に出るまでの物語まで、そんな英雄譚を導き手という特等席で観察するとなれば、確かに面白そうだとショウキも思う。
「さて、今回の出血大サービスは閉店ダ。ま、また何かあれば来てやるヨ」
「……お手やわらかに」
そうして信じられないほどあっさりと、別れの挨拶とともにアルゴもログアウトしていった。彼女もまた夢のために修行中のリズのように、次なる英雄譚を求めて、どこかに旅立っていったのだろう。プレミアも同様に、今この瞬間にも自分探しの旅とやらをしているのだろう。なら自分は――などと、ショウキの思考にそんな聞き飽きた言葉が浮かぶ。
「……よし」
気合いを入れ直して、リズベット武具店の開店準備を始めていく。ショウキ自身にはあいにく、彼女たちのような立派な夢などないものの、そんな彼女たちが夢に邁進できるように、土台を固めて
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