暁 〜小説投稿サイト〜
SAO−銀ノ月−
『どうかこんな日常が』
[6/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初


 ――あたしに甘えても、いいわよ。

 ログアウト機能が働いたようで、そう言いながらもリズのアバターはこの仮想世界から消えていく。今の今までそこにあったリズの感触を改めるように、手を握りながらショウキはふと呟いた。

「……いつも甘えさせてもらってるよ」

 ああ、リズがいなければ、ショウキという存在がここにはいないと、確信をもってそう言える。しかしそれはそれとして、ショウキの胸中に秘めた気持ちは別のことだった。

「……やられた……」

 敗北感と多幸感というなかなか同時に襲われることのない二つの感覚を味わいながら、髪をグシャグシャと掻きながら頭を抱えつつ。まずは勝手に吊り上がる口の端を何とかせねばと、落ち着くために飲みかけのコーヒーを飲もうとするが、今は唇を流したくないな、などと気持ちの悪い思考を張り巡らせていると、店の扉が開く音にショウキは硬直する。

「……ガーネットか?」

「残念ながらオネーサンは、あんな初々しくはないナ」

 誰にだろうとこんな醜態を見せるわけにはいかず。もはやどうしようもないと、ショウキは強行手段として自らの頬を叩くと、ようやく落ち着いた素振りを取り戻して。同じく取り乱していたガーネットが戻ってきたかと思えば、帰ってきた声はあいにくと似ても似つかなかった。

「そんなだからグウェンに鼠BBAなんて言われるんじゃないか?」

「そんなこと言ったヤツは今は海の底だがナ」

 先の件から姿を見ていなかった鼠の姿に、どうにか動揺を見破られませんように、とショウキは願いながら。さも鍛冶屋の仕事を一人でしていました、とばかりの様子を見せびらかしていると、何やらアルゴから変に見つめられて。

「……ショウキ一人しかいないのカ?」

「ああ、あいにく……ところで。何か用か、当ててみてもいいか?」

「ほー、面白そうじゃないカ。オレっちの用事、当てられれば少しサービスしてやるヨ」

 目の前の鼠にキスで前後不覚になっていた、などとバレればどうなるか分かったものではない。そんなショウキの心境を知ってか知らずか、アルゴはそのまま何やら探るようにキョロキョロと辺りを観察し始めていく。そうはさせるかと、ショウキがそれよりもアルゴの注目を引くようなことを言うことに成功し、どうにか先のことがバレるような事態にはならなくて済んだようだ。

「別れの挨拶」

「……その心ハ?」

「プレミアがいなくなったこの店に用もないだろ」

「なんだなんだ、寂しいこと言ってくれるナ……ま、会えなくなるわけじゃないサ」

 事態の追求をされないための話題ではあったが、アルゴの用件に当たりがついてはいた。そもそもアルゴと出会ったのは、プレミアという当時は謎だった存在ありきであり、彼女が
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ