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人理を守れ、エミヤさん!
真名開示 エミヤシロウ
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 カン、カン。

 ――(てつ)()つ心象、蒼穹の空は硝子の細工。透明な風景に熱はなく、淡々と廻る空の歯車は機械の部品。
 無限に鍛えられる剣の丘に、佇む男は目を閉じている。目を凝らすと、それが何者か判じる事が出来た。『赤い外套の弓兵』だ。意思を剥奪された、霊長の守護者。ただの掃除屋とすら言えない、使役されるだけの自我無き奴隷。
 大きな歯車が廻ってる。剣の丘を十全に廻す為の機構。何故あの男は此処に? 懐疑する意識を遮断する。そんなものよりも、向き合わねばならないモノがいた。

「……『この世全ての悪(アンリ・マユ)』か」
「ご名答。いや、悪いね。人理修復の旅の途中にこんな寄り道させちまってさ」

 すぐ傍に影法師がいる。士郎の姿を黒く塗り潰した悪意の塊だ。友好的とも言える物言いとは裏腹にその目にあるのは煮詰まった毒念のみ。凡そ人間の持ち得る負の感情の坩堝だ。
 嫌悪感も露に一瞥する。殺めようとしてもなんら意味がない。故に剣を握ろうとはしなかった。だが自分の姿を見ると、いつだって反吐が出る。
 黒い肌をのたくる刺青は不定形。それは常に流動し、赤いバンダナを額に巻いている顔はへらへらと軽薄な笑みを浮かべながらも、混沌とした殺意を渦巻かせている。

 士郎は嘆息した。アンリ・マユは聖杯の泥を通して士郎に触れている。なら士郎の知っている事ならアンリ・マユもまた知る事が出来るだろう。

「安い男だ。いや女なのか? どうでもいいが、アイリスフィールを操るのに失敗すれば、誰でもいいから器にしようだなんてな」
「ああ、同意するぜ。我ながらバカな事をした。まったく、最初から詰んでるなんてクソゲーどころの騒ぎじゃねぇよ。クレーマーさながらに文句を垂れたいところだね」

 やれやれと肩を竦める様は、まるで焦りを感じさせないものだ。本当に手遅れだと悟り、刑の執行を待つ服役者のような潔さを感じさせる。
 だがそれは欺瞞だ。自らの誕生を諦めたとしても、それでこの悪意を諦める理由にはならない。アンリ・マユはにやにやと嗤っていた。

「カルデアだっけか? 人類史の為に孤立無援の戦いに挑む、感動的だね。ああ、とっくに滅んだ死体を、無理に蘇生させようと努力する様は涙を誘われらぁ」
「好きに言え。好きに呪え。そんなもので、俺が揺らぐと思うならな」
「そりゃあ揺らぐ訳ねぇよな。テメェは世の為人の為、そして何よりもどれよりも自分の為に人理を救うんだろ? 知ってる、誰だって死にたくはねぇもんなぁ。分かる分かる、痛いほどよく分かる。オレもなぁ、死にたくねぇもん」
「だがお前は死ぬ。いや産まれる事もないから死ぬんじゃない、産まれないだけだ」
「酷い話だ。今もおたくを助けようって、魔術王がオレを速攻溶かそうとしてやがる。あーあ、こりゃ
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