真名開示 エミヤシロウ
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い妄想で補填していたんだろうけどな? じゃあなんで人類史焼却の事件の事をおたくは知ってるのに、その概要を全然知らないんだ?」
「記憶が、磨耗しているんだ。そう何年も覚えていられる訳がない!」
必死に否定する。ぐらつく足場に踏み留まる。嘲笑が浴びせられた。
「ばーか。エミヤシロウはどう足掻いてもカルデアに辿り着く定めだったのさ。抑止力に後押しされてな。アンタのその知識は英霊の方のアンタのそれと、抑止力がアンタを誘導する為に植え付けたモンなんだよ。本当は分かってんだろ? 認めちまえって」
認められるはずがなかった。なら、自分が歩んできたこれまでの道は――英霊エミヤの強迫観念に突き動かされてきただけだという事になる。
そんなのは認められない。認めてはならない。だってそんなの――まるで自分がただの、操り人形のようではないか。
認められない、契約していないのに。英霊エミヤと同化しているから、死後もアラヤに回収されてしまうなんて。そんなの――あんまりじゃないか。なんのために生きているのかすら、覚束なくなる。
「なあエミヤシロウ。おたく、フィクションとしてこの世界を観測する場所から来た魂だって言ったよな? じゃあさ、なんで――」
「やめろ……」
「――なんで、第五次聖杯戦争の事と、カルデアの存在……英霊エミヤの事しか知らなかったんだよ?」
「やめろ――!」
頭が真っ白になる。
「第一次から第四次聖杯戦争を知らない。他の世界中の全ての事件を網羅してる訳じゃない。言っちゃあなんだが、この世界、エンターテイメントとして眺めるにはうってつけの娯楽だと思うんだがねぇ。あ、もしかしてウケが悪かった? 売れない世界観だったかな? ギャハハハハ!」
――そんな言葉は聞こえない。
確かにそうだった。士郎は何故、第五次聖杯戦争以前の事変を何も知らなかった。
いや正しくは何故、それ以外を。エミヤシロウではないはずの、別の名前が思い出せないのか。そもそもそんな人間などいなかったのなら――思い出せる訳がない。存在しないのだから。
「俺は――エミヤシロウ、だったのか……?」
その呟きは、認めるそれだ。
目が眩む。意識が一瞬、そう一瞬だけ揺らいだ。
瞬時に建て直すだろう。士郎は自分の成してきた事に後悔などないのだから。動揺も少しだけ、決して士郎が変質する事はない。
だがアンリ・マユにはその一瞬で十分だった。極大の悪意が、嗤う。
「鼬の最後っ屁だ――お休み、エミヤシロウ」
瞬間。
士郎の心に生まれた微かな間隙を突いて、泥が流れ込む。気づいた時には既に遅い――士郎はその意識を暗転させた。
「――先輩!?」
「お兄ちゃん
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