真名開示 エミヤシロウ
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う手がない。
故に。この場にあった守護者の魂を利用したのだ。同一存在である少年に憑依させる事で、破滅へ対抗する切り札として投入した。
聖杯戦争の再演に伴う、参加者の記憶の改竄。自意識があやふやとなり、そして同一存在であるが故に憑依は滞りなく済まされた。
誰にも知られず。本人すら知る事のないまま。抑止力は、誰の目にも触れない。
そして、聖杯戦争は再演した。
『問おう、貴方が私のマスターか』
――少年は惑った。どうしようもない既知感、これを識っているという感覚。
知っていて当然だった。記憶がなくとも、それは英霊エミヤの記録である。魂に同化した存在が識っている、故に彼は自分が全てを騙していると感じて、罪悪感に苦しんだ。
桜や慎二。藤村大河。大切な人達を欺いていると誤解した。嘗ての記憶すらも二重に存在する故に、彼は勝手に己を嫌悪した。
唯一、違いがあったとすれば。
この世界の衛宮士郎は、英霊エミヤとは異なり壊れた人間などではなかった事――ただのお人好しで。正義の味方としての警察官を志していただけの――地に足ついた考え方をする正常な人間だった事だ。
英霊エミヤとこの世界の衛宮士郎は、完全に別人だった。
だが、英霊エミヤという、自我のない守護者の思想に多大な影響を受けてしまった。
未熟な魔術師でありながら、十全に投影を行えるのはそれが故。彼が『投影杖』と呼んでいたのは、英霊エミヤの感覚をなぞれるが故の違和感。
『俺は、お前を愛してなんか――!』
最後の時、少年は懺悔しようとした。しかし、アルトリアは確信を持って、ふわりと微笑んだ。
『いいえ――貴方は私を愛しています』
『――』
『シロウ。そして私も、貴方を愛してます』
それは、掠れて消えた記憶。
「――問五。おたくの名前は?」
真っ暗な、暗黒の中に立ち返る。響いた悪意の名は――
「俺、は……?」
「――そう。
おたくはエミヤシロウだ。
おめでとう、おめでとう! アンタは今本当の名前を思い出せた!」
拍手と共に祝福する『この世全ての悪』を、見る事も出来ない。アイデンティティーが完全に、足元から崩れ去るかのような心地だった。
幻だ。偽りだ。虚言だ。そう断じるのは容易いはずなのに否定する事が出来ない。
「――俺は、知っている。衛宮士郎じゃない俺は! この世界がフィクションとして描かれる世界から流れ着いた魂のはずだ!」
「なにその痛い妄想? 第二魔法かよ。しかも魂だけ他所から流れてきて、赤の他人に憑依して正気を保てる人間なんざいねぇよ。破綻者だ、正気でいられるとすれば。大方自身の記憶の齟齬をそんな痛々し
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