撹乱する意思の蠢き(上)
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みを送り込むのが限度。しかしその意図に過たず沿える信頼がある。
果たして魔術王は士郎の意を正確に汲み、令呪の魔力を変換して大魔術を連続行使した。
「来たれ地獄の伯爵――序列四十六位、魔神ビフロンス!」
第一に喚び出されしは実像のない霧の魔神。額らしき部分にのみ実体の一角が隆々と聳え、意志なき霧の魔神は忠実に使役者の意向を実現する。
展開されるは無尽の幻影。現実に上書きされる幻の術。生み出されし奈落の如き闇が、英雄王の射ち出した財宝の行き先に広がり呑み込んでいく。完全に幻の向こう側へ呑まれ消失する前に、ギルガメッシュは財宝を回収するも、間に合わなかったものもある。
その幻術に、無差別にバラ撒かれる宝具の矛先を凌ぐ意図はない。純粋に周辺に齎される破壊の被害を抑える事、それ一点。それのみが能う限界。しかし魔術王の使役する魔神は、確かに無辜の市民に一切の被害を出さず、一切の認知を赦さず、あらゆる災厄の福音を遮断してのけた。この期に及び、士郎とロマニが第一としたのは自衛ではなく、被害を抑える事だったのだ。
――賛美する獣の鳴き声が響く。
「ほう。やるではないか、魔術王……! それでこそ、この我に次ぐ第二等の王だ。が……それのみではあるまい?」
愉しげに細められる真紅の瞳。それにソロモンは舌打ちしそうだった。
――従来の聖杯戦争であれば、マスターを持ち、令呪に縛られるサーヴァントに魔術王の敵はいない。令呪に介入し、纏めて自害させればなんの手間もなく斃せてしまうからだ。
今回の冬木でそれをしないでいるのは、己のマスターにして、友人である士郎の手腕を己の目で直接見る為でもある。それに本来の特異点では通用しない手段を無闇に用いるべきではないとも考えていた。
だがそれらを無視してでも英雄王を始末してしまおうとした。それほどまでに英雄王は危険極まる。ソロモンではなくロマニにとって。だが、それが叶わない。何故なら――英雄王に、令呪の縛りがないのだ。マスターがいない、はぐれサーヴァント状態なのである。
マスターはどうしたのか。そんな事は問わない。問うまでもない。マスターを殺めるまでもなく契約を切る手段は持っているのだろう。
マスターがいなくて、どうしてこんなに暴れられるのか。その答えは単独行動スキルと宝具による併せ技だろうと見当もつく。
令呪を介して脱落させる術が通じないなら実力で排除するしかない。だが相手は音速を超えて飛翔する英雄王。断じて容易くはない。カルデアのシステムは今、二極戦線を抱え魔力供給はとうに限界である。士郎の魔力に依存するしかないが、その士郎の魔力も多くはないのだ。
少ない魔力で立ち回る不便、それを不便と感じる人間性が魔術王を縛っていた。
しかし――
「運べ地獄の大公爵
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