軌道修正だね士郎くん!
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軌道修正だね士郎くん!
遠坂時臣は冷たい汗を流していた。
自身の領域足る遠坂邸、その魔術防衛機構をあっさりと――それも工房の主、時臣に感知させないほど鮮やかに突破してのけ、書斎にいた時臣の眼前に娘の凛を担いだ男が現れたのだ。
動揺するなという方が無理な話であり、動揺こそすれ、すぐさま我に返った時臣の精神力は優れたものだと言えるだろう。しかし如何に秀でた精神力を有していようとも、その誰何する声が震えるのは仕方のないことである。
「……貴様は何者だ?」
「見て分からんか」
白髪の男である。肌の色はアジア人のそれ。言葉は標準語の日本語で、国外の言語による訛りなどは見られない。
髪を脱色したか、魔術の反動で髪の色素が抜けた日本人である、と時臣は見抜く。
しかし外見から判じられるのはそれだけである。「見て分からんか」などと言われて察せられるようなものではない。
苛立たしげな彼の先程の言葉。時臣は彼が何者であれ、魔術で気絶させられているらしい娘を、白髪の男が抱えているのは見過ごせなかった。
「履き違えていた。貴様が何者であろうと関係がない。明白なのは、貴様が私の娘を楯とする卑怯者ということだ」
「工房の守りを抜かれたことに、気づきもしなかった間抜けがよく言った。その気概に免じ、この場では殺さないでおいてやる」
その大上段に構えた壮語を笑い飛ばそうとした瞬間である。
不意に背中に感じた刃の鋭さに、時臣は絶句した。
「――んだよ。ここで殺っといた方がいいと思うぜ、オレは」
「そう言うな。ちゃんと考えはある」
「さ、サーヴァント……? では貴様は、」
聖杯戦争の参加者、マスターの一人。
背後に在る以上、そのサーヴァントの姿は見えない。だが暗殺者の如く唐突に現れた気配に驚愕する。
人智を越えた濃密な神秘の気配。背筋が凍る尋常でない殺気。勘違いするなど有り得ない、それはまさにサーヴァント。
慄然とした時臣は、咄嗟に令呪を意識する。英雄王を喚ぶ以外にこの状況を切り抜けられない、と彼は感じた。だが、令呪を発動するだけの隙があるようには思えなかった。
下手に動けば命はない。背中から心臓に狙いを付けられている。指先ひとつ動かせば、或いは魔術回路を起動すれば、たちまち時臣の心臓は串刺しにされる。どうする、と頭脳が高速で回転し――時臣は、目の前の男が自身を冷徹な眼差しで観察していることに気づいた。
「この髪は目立つんだがな。俺の外見的特徴に対する無反応、背後のランサーに対する鈍さからして、まだ言峰綺礼から俺の存在は知らされていないらしい」
「ッ!?」
「ああ、喋るな。俺が勝手に喋ってるだけだ」
その言葉は。綺礼と時臣が協力関係にあることを、すでに知っているこ
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