睦まじきかな、盾の少女
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降りたフォウが、テーブルの上に用意していた果物の盛り合わせの前に向かった。
心得たもので一人で食べ始めたりしない。お行儀が悪いぞ、と以前指摘したことを覚えているのだ。
「先輩!」
「ん、なんだ?」
「見て欲しいものがあるんです、いいでしょうか!」
「いいぞ」
矢鱈と力んでいるマシュの語意に、手にしていたカップをソーサーに置いて頷いた。
むん、と鼻息荒く、やや緊張ぎみにマシュが小さくよし、と気合いを入れた。その様に、俺は微笑ましげに目を細める。
ややあって、片手を胸の前にやり、一定の早さで手を動かす。そのサインを見て、俺はさも驚いたように声を上げマシュの送ってきたサインに応じた返事を返す。
意味が通じた。マシュは嬉しそうに顔を輝かせ、頻りにサインを送ってくる。手話に近いが意味合いは異なるそれは、端から見ているとまるで意味が分からないだろう。
どれほどそうしていたのか、興奮ぎみの少女の気が済むまで付き合う気でいたが、傍で眺めていたフォウが途中二人だけの空気に耐えかねて鳴き声をあげた。
「ふぉう! ふぉーう! ふぉーう!」
「ん?」
「あ、フォウさん。……むぅ、フォウさんを放って二人だけで話すのはいけなかったですか」
「フォウ君は構ってちゃんだからなぁ」
俺がそういうと、後ろ足二本で立ったフォウが前肢で俺の肩を叩き遺憾の意を表明した。
鼻を軽く押してひっくり返させ、その腹を撫でてやるとフォウは擽ったそうにもがく。ははは、と笑いながら擽り続けると、今度はマシュが手を伸ばして擽り始めた。
「ぶるふぉぉおお!」
悲鳴をあげてなんとかフォウは飛び退いた。
離れて睨み付けてくるも迫力はない。怒っているのではなく、照れ怒りのようなものだ。
「ふふふ」
微笑むマシュに、俺も相好を崩す。どちらも可愛いものだ。
マシュに飛び付いて仕返しのように懐に潜り込もうとするフォウをマシュは意外とあっさり捕まえた。
「先輩。私のサイン、どうでした?」
「完璧だな。言うことはない。切嗣に習ったんだな」
「はい! アサシンさんは、その、話しづらい方かと思ってましたけど、別にそんなことはなくて、教えを請いに行ったら丁寧に教えてくれました!」
「そっか。うん。そりゃよかった」
「あの! これで私、先輩のお役にもっと立てるようになったでしょうか!」
「ばか。最初から役に立ちっぱなしさ、マシュは」
それに、役に立つ立たないで態度なんか変えない。そう思うも、言ってもマシュは変わらないだろう。そして、それでもいいと思う。
マシュは今のままでいい。穢れは全て大人が担う。無垢でいて欲しいと、俺は思うのだ。まあ、独り善がりだと言われたらそれまでだが。大人のエゴとはそういうものだろう。
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