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同行二人
第三章
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「幾ら何でもな」
「今も生きておられて」
「それでお遍路を回っているとかな」
「ですがこの宿もそうで」
「実際に見た人もいるんだな」
「はい、ですから貴方も」
「見られたらいいか」
 富田は信じられないといった顔のまま述べた。
「そうなるか」
「はい、そのことを楽しみにしておいて下さいね」
「そんな筈がないと思うがな」
 富田は今も流石にそれはないと思った、そうしてお遍路を回っていき八十八ヶ所を一つ一つ歩いて回っていった。
 その中で遂にだ、七十二ヶ所を回ったが。
 ここでふとだった、彼は道に迷ってしまった。それで地図を開いたがどうにも道がわからなかった。
 それで困っていると彼と同じお遍路に出ている者が来た。初老の外見の男で背は高く身体つきはしっかりとしている。眉は太く濃く顔つきは逞しい。
 その彼がだ、富田のところに来て尋ねてきた。
「道に迷いましたか」
「はい、どうにも」
 富田はその男に答えた。
「そうなりました」
「そうですか、ではです」
「では?」
「拙僧はお遍路にいつも出ていますので」
「いつもですか」
「はい」
 落ち着いた声だった、穏やかで知性さえ感じられる。
「それでこの辺りの道にも詳しいつもりです」
「そうなのですか」
「ですから」
 それでと言うのだった。
「拙僧で宜しければ」
「道案内をしてくれますか」
「はい、ただ」
「ただ?」
「どうもこの度は普通に道に迷ったのではないですね」
 男は富田に落ち着いた声のまま言ってきた。
「これは」
「といいますと」
「はい、これは狸です」
「狸ですか」
「狸が化かしていますね」
 こう言うのだった。
「それで道に迷っています」
「狸とは」
「この四国は狸の国です」
 男は富田にこうも言った。
「このことはご存知でしょうか」
「聞いてはいますが」
「それです」
 まさにというのだ。
「四国の狸の誰かが悪戯をしています」
「それで道に迷っていますか」
「お遍路では時折あることです」
「狸のこうした悪戯は」
「別に迷わせてそこから害を為すつもりはないです」
 狸達にそこまでの悪意はないというのだ。
「それだけです」
「あくまで只の悪戯ですか」
「悪戯が狐狸の習性です」
 狸だけでなく狐もそうだというのだ。
「悪く思われない様」
「そうしたものとですか」
「はい、思われて下さい」
「わかりました、ただ道に迷いましたので」
 富田はここで何時の間にか男に敬語になっていることに気付いた、自然とその男に畏怖を感じてそうなっていたのだ。
 畏怖であるがそれ以上に尊敬の念を感じていた、初対面の相手に礼儀ではなく自然とそうなっていることに違和感を感じていた。
 しかしだ、男はその彼に
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