曙光、されど暗雲晴れず
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顔がなんだか可愛い。やはり眼鏡はいい文明だなと改めて確信する。
左腕に感覚はある。しかしそれは、とても鈍い。
傷の具合からして、俺が医務室に運び込まれ一日といったところか? 流石に何も無しとはいかなかったが、五体満足で帰ってこられたなら上等だろう。
「目が覚めたのですね、シロウ」
気配を感じなかった。頭の芯がボケている。
右側から声がしたので釣られるようにそちらを見ると、そこにはマシュと同じ白衣を纏ったアルトリアがいた。椅子に腰掛け、穏やかな面持ちで俺を見ている。果物ナイフでリンゴの皮を剥いて、自分でしゃりしゃりと食んでいた。傍らにいるオルタはぴくりとも動いていない。
彼女が現代風の衣装を着込んだ姿を見るのは初めてではない。しかしその格好は些か予想外であった。思わず目をぱちくりとさせると、何故かハッとして、アルトリアは大慌てでリンゴを隠す。
その様が可笑しくて、俺は不用意に口を滑らせてしまった。
「……なんだ、普通の女の子みたいだな」
な、と開口一番の不意打ちに、アルトリアは頬に桜を散らして押し黙った。
言ってから、しまった怒られる、と後悔した所へその反応。昔は女の子扱いされるとすぐに怒っていたというのに、どうしたというのか。
アルトリアとは少し距離を置き、こちらを見詰めているオルタは、闇色のゴシックロリータじみた格好で静止している。その雰囲気に察して、俺は問いかけた。
「もしかして、ずっと着いててくれたのか?」
二人に訊ねると、こほん、と咳払いしてアルトリアが応じた。
「ええ。シロウが倒れているとなると、私達もする事がありませんから。どうせなら着いておこうと決めて、オルタと共に傍にいさせて貰いました」
「……そっか。ありがとうな、アルトリア、オルタ」
「いえ。礼には及びません。勝手にしている事ですから」
「……本当にな。その『私』は寝ているシロウの額に唇を落とす程度には勝手だ」
「!? お、オルタ!?」
突然の暴露にアルトリアが慌てて背後を振り返った。
オルタはそんな自身を薄く笑いながら揶揄する。先の戦いの最中の事を指して。
「シロウ。余り『私』をからかわない方がいい。私はともかく、その『私』は、貴方が思っているほど慎みがある訳ではない」
「そっ、そんな事はしていません! シロウ、今のはオルタの虚言です、私はそんな破廉恥な真似はしていませんから!」
「……」
額を触ると、なんとなくされた気がする。
一瞬だけ柔肉が触れたような、触れていないような。曖昧な、錯覚と言えなくもない感じ。微笑んで、悪くない気分だよ、と呟く。
固まるアルトリアを横に、オルタに言った。
「羨ましいならオルタにもしてやろうか?」
「……何を」
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