暁 〜小説投稿サイト〜
人理を守れ、エミヤさん!
偽伝、無限の剣製 (前)
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


 ソラが、落ちてきた。

 聖剣の光に照らされ、(かし)いだ北欧神話の世界樹(ユグドラシル)の如き樹槍。その偉容はローマの歴史その物の質量に比し、たった数騎の英霊など容易く押し潰してしまうだろう。
 聖剣の一振りで消し飛ばすには巨大すぎる。楯で受け止めるには重すぎる。人智で計るには荷が勝ちすぎた。
 一瞬、諦念が脳裏を過る。ここまでか、と体から力が抜けてへたり込みそうになる。だが諦めて堪るかという、強烈な怒りにも似た激情に俺は天蓋の崩落を睨み付けた。
 しかしそれがなんになる。不屈の闘志が一体なんになるというのだ。そんな精神論、この現実の事象にどう左右するという。ゆっくりと傾ぐ樹体、後のない危機的状況。まさに絶対絶命という奴であろう。
 だが、それこそなんだというのか。絶対絶命なんてもの、これまで幾度も乗り越えてきたではないか。今度も乗り越えられる、乗り越えて見せる、現実に施行可能な選択肢を思考しろ、何がこの危機を打開せしめるのか見極めろ。

 マシュの楯で凌ぐ――却下だ。マシュのそれが強力無比な防壁となるのは確かだ。しかし上から圧し掛かってくるものを受け止めるという事は、そのまま巨大質量を支える事に繋がる。そうなると宝具の長期展開を余儀なくされるだろう。
 宝具を長時間展開出来るだけの魔力を、俺もマシュも残していない。仮に実行した場合、魔力が尽きるまでの間、死期が遠ざかるだけ。時間を稼いで策を練る猶予を稼げるかもしれないが、それだけだ。今より消耗した状態で一体何が成せるというのだ。
 ではアルトリア、或いはオルタによる聖剣抜刀はどうか。――これも却下である。マシュの楯すら満足に発動出来るかどうか定かでないというのに、最強の聖剣の魔力消費に今の俺が耐えられる筈もない。そもそもこんな巨大なものを焼き尽くすほど、広範囲に放射出来るものでもなかった。無理矢理に聖剣を解放させたとしても、魔力の不足故に通常の威力を発揮する事すら出来まい。
 となるとネロ、アタランテ。この二人もまた論外だ。単純に火力がない。ネロの剣に灯る火も、果たして全員を守護するのに足りるのか。不確定なものに賭け、縋るのは無責任である。

 ――無意識の内に、一節を口ずさんでいた。

 マシュを見た。薄く儚い少女。普通の、女の子。デミ・サーヴァントとして楯を構え、なんとか防ごうと気組を立てている。その目は只管に俺を見ていた。
 何故俺を見る? 俺ならどうにか出来るとでも? ……いや。自分に命じろとマシュは言いたいのだろう。自分が真名解放し一時とはいえローマの質量だろうと支えて見せるから。その間に、なんとか逃げてほしい、と。
 その献身は。
 命を賭してでも俺に尽くそうとする姿勢は、誰かのために在ろうとする感謝の気持ちは。尊い物のはずのに、吐き気がして
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ