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人理を守れ、エミヤさん!
偽伝、無限の剣製 (前)
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 俺の神経を逆撫でにする。逆上にも似た怒りが俺を発奮させた。

 ――お前を犠牲にする手なんて、選べるか。

 三十路手前のいい年したおっさんが、ガキに縋るようになったらお仕舞いだ。
 渾身の魔力を振り絞り、紡いだ二節。軋む肉体。哭く回路。強がりは男の子の特権だ。だが苦境の強がりはおっさんの義務である。剣製に特化した魔術回路が唸りをあげ、鋼の剣が内部から総身を突き刺していく。痛くないよと痛がって、表情の上に鉄を置く。微塵も顔色を変えない、もうこうなったら意地だった。
 アルトリアとオルタを見た。無理矢理に聖剣を解放しようとしている。己の存在を維持する魔力を聖剣に充て、充填させていく。責任を取るつもりなのか、この事態を招いた事を責任と捉えているのか。
 ばかめ。決定し実行したのは俺だ。ならその責任は俺のものだ。リーダーは俺だろう。偉ぶる為にリーダーを張ってる訳じゃない。断じてお前達に重荷を背負わせるものか、こんな所でお前達を失って堪るか。
 俺は、待て、と断固として言った。
 ハッとして俺を見る碧い瞳、琥珀色の眼。信じ難い物を見たというような顔は、属性が正反対であっても同一人物である事を納得させた。
 立ったまま顔を伏せ、内側から突き出てきた剣山に貫かれ無惨な肉塊と化した左腕をぷらんと落とす。眼を閉じ右手で祈るように拳を作った。

 ネロは何を察したのだろう。アタランテは事を成さんとする男を見守っている。

 みんなは俺の成そうとする事を知っている。俺の能力は話してある。故にだろうか、託すように俺を見ていた。
 その信頼が重い。その視線が痛い。もう使う事はないと、自らに禁じていた、あの朝焼けの丘。克明に浮かび上がるイメージに心的外傷の瘡蓋が剥げる心地がした。
 あらゆる信条をネジ曲げても、魔力が足りないという現実的問題がある。展開出来ても十秒そこそこだろう。結界の範囲を限界まで広げ、外部の世界から遮断し――其処からどうする。異世界というシェルターを敷いて、其処から、どうするというのだ。

 三節、四節、五節。

 唱える内に、傾いだ樹国はソラとなって落ちてくる。いつの間にか側まで来ていたマシュが肉塊となった左腕を掴み、倒れそうな体を支えてくれた。

「――yet, (けれど)

 頭をカラにして、紡ぐ六節。

my flame never ends(この生涯は未だ果てず)――」

 頭痛がする。喉元を競り上がる鉄の味に、束の間、現実を忘れた。

My whole body was (偽りの体は)

 この偽物が、借り物の人生が、俺のものなのだと謳う厚顔無恥。
 恥知らずな我が身。省みぬ罪禍。
 本物の尊さを語る術はない。偽物の偽者だ。何を言っても白々しく何を知っても空々しい
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