全て、全て、全ての言葉はローマに通ずる
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「――聖杯に取り込まれ、暴走した私が英霊としての私を切り離し、そなたらの許に向かわせたのが、残滓であるこの私である」
士郎は、とりあえず敵ではないとだけ理解し、酒を口に運んで、言った。
「……もう一度、分かるように言ってくれ」
「わ、分からぬのか!?」
独特に過ぎる言い様に困惑しながら頼むと、なぜかネロが驚きながら反駁してきた。
隣のネロを、ジト目で見る。分かるわけあるか、と言外に滲ませて。
――ふむ。これもまた、ローマであるか。
――ローマは、ローマである。
――如何にも。カルデアのマスターよ。ローマが、ローマだ。そして――
――聖杯に取り込まれ、暴走したローマが英霊としてのローマを切り離し、そなたらの許に向かわせたのが、ローマであるこのローマである。
……何回ローマと言ったのかはどうでもいいとしてだ。
実際なんとなくニュアンスで判断できなくもないが、具体的に何を言っているのかはまったく理解できなかった。寧ろこれで分かれというのが無理な相談である。
士郎は経歴柄、語学には堪能な部類だが、古文書の解読専門家ではない。名詞の殆どが『ローマ』とか、まともに話す心算があるのか甚だ疑問である。
こめかみを揉みつつ士郎は神祖ロムルスに言った。
「すまない。そちらが何を言ってるのか、まるでわからない。出来れば俺にも分かるように話して欲しい」
「ぶ、無礼であるぞシェロ! 神祖に対してそのような――」
「よい、我が子ネロよ。それもまたローマである。その身が未熟であろうといずれローマの言葉の真意を悟れるようにもなろう」
「……」
鷹楊に構えるロムルスは、その生来の余裕から全く士郎の物言いに気分を害した様子はない。……が、分かりやすく言い直す気もないようだった。
流石に英雄王とタメを張れる格の持ち主。吹けば飛びそうな儚い存在感からすら、途方もない王気が衰えることなく発せられている。自我の強大さも英雄王に比するとは、感服するしかなかった。
もう一度言おう。
感服する『しか』なかった。
これまでの経験上、ぶっちゃけ理解不能すぎて素面で相手するのは困難な部類だと判断せざるを得なかった。士郎は諦めたように嘆息し、酒を呷る。二度、三度。
そして酒が回ってくる感覚に眼を瞑り、対面に胡座をかいて座す神祖の残滓に、酒を差し出した。
「……何はともあれ、駆けつけ一杯」
「うむ。有り難く頂戴しよう」
瓶ごと呷りロムルスは豪快に飲み干した。まだ半分ほど残っていたはずだが……まあいい。気を利かしてくれたマシュが、せっせと武器庫から葡萄酒の瓶を二本持ってきてくれた。
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