テロリストは斯く語りき
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至っていないわけがない。
ブリタニアに敵がいる。仮にダレイオス三世を退けるようなら、それは一定の脅威足り得るとカエサルも認めるはずだ。ならば、こちらはある程度の知恵を持ち、ダレイオス三世を返り討ちにする程度に力があると考えるだろう。相手があのユリウス・カエサルだ、確実なことなんて何もないが……。
構わない。読まれていい。こちらの勝利条件はカエサルに勝つことではないのだ。
ならば、戦うことはない。
戦えないなら戦わない。勝てない相手に、無理して勝ちにいくことはないのだ。
無視できないほど巨大な存在。
恒星の如く煌めく伝説の名将。
無視し難い、だからこそ――無視する!
「――失敬。エレガントに言い直させてくれ」
正気を疑うような四対の目に、俺は微笑みながら訂正する。
「進退窮まった。斯くなる上は我ら火の玉となり、玉砕覚悟で敵本丸に打ち掛かる。万歳、神風特攻!」
ランサー、クー・フーリンは、ダレイオス三世を完膚なきまでに粉砕し、猛る血潮を鎮めながら主人のもとへ帰還した。
まず戦功一つ。それなりの働きだったはずだ。労いの言葉を期待しているわけではない。ただこれからの采配に大いに期待を寄せていた。
何せ、今回のマスターは自分のことをよく分かっている。無理難題を吹っ掛けてくるはずだ。そしてそれをこなしてこその英雄であるとクー・フーリンは考えている。このマスターは――どんな命令を出すのか、実に楽しみだった。
そうして主人達の待つ仮初めの拠点、召喚サークルの設置された所へ戻ると、クー・フーリンは思わず眉根を寄せた。
味方のサーヴァント達、そしてローマ皇帝が揃って難しい顔をしていたのだ。唯一マスターだけが平然としたふうに酒を呷っているためか、奇妙な空気が流れている。
こちらに気づいたのか、マスターが笑いながらグラスを差し出してきた。
「駆けつけ一杯」
応、と受けとる。これがこのマスター流の労りなのだろう。それを快く受け取って、一気に飲み干し――
「ぶふぉっ?!」
吹き出した。
「なんじゃこりゃあ!? 何、なんですか?! これは新手の苛めかなんかなんですかねぇ!?」
喉を焼き、臓腑を燃やす炎の酒。――クー・フーリンの印象は劇物だった。
先程まで見せつけていた無敵の勇者然とした姿はそこにはない。親しみやすく、身分の別なく付き合える気安いニイちゃんがそこにいた。
ネロが目を丸くした。あの勇士が、こんな甘く美味でまろやかな甘酒を飲んでこんな大袈裟にしているのがおかしかったのだ。
「なんと……かの大英雄ヘラクレスを彷彿とさせたランサーが、下戸だったとは……」
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