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人理を守れ、エミヤさん!
英雄猛りて進撃を(下)
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も挑みかかってくるダレイオス三世に忠告した。
 それは余りに今更過ぎて、当たり前な意見だった。

「狂戦士に言っても意味ねえかもしんねえけどよ。――王が狂ってどうするよ? 折角の軍略も、見る影もねえぜ?」

 そう言って、ダレイオス三世の戦斧をあっさり躱し、クー・フーリンはその心臓を無造作に穿った。
 戦士としての格が違いすぎる。一対一で対峙した時点でこの終わりは当然の帰結だった。
 霊核を破壊されたからか、狂化が解け理性の戻った瞳でアケメネス朝最後の王は、本来の大器を窺わせる声音で静かに言った。

「……見苦しい姿を見せたのみならず、要らぬ手間までもかけたか……」
「……」
「益荒男よ。次があれば、その時に吾が精鋭の力を……」

 消滅したダレイオス三世は、口惜しげにクー・フーリンを見ていた。
 無言でその死に様を見届け、クー・フーリンは己の主人がいるだろう方角に向けて声を張り上げた。

「――どうだい。やるもんだろう? オレも」

 答えは帰ってこない。だが構わず続けた。

「だが物足りねえな! オレはまだ本気を出してねえ。城も戦車も出してねえし、この朱槍も使いきってねえ! これがオレの全てだと思われちゃ心外だ!」

 だから、と獰猛に犬歯を剥き、アイルランドの光の御子は猛る闘争本能のまま、ローマを指して進撃をと訴えた。

「オレに命じろよマスター。敵を倒せ、獲物を食らえってな。今度は誰を殺ればいい? 命令(オーダー)だ、命令(オーダー)を出せマスター! 番犬はまだ飢えてるぜ!」

 衰えることを知らぬ闘争への渇望。
 修羅の国ケルトに於いて、死後もその死を信じられず、恐れられ続けた死神以上の死の具現。
 主人は苦笑しながら言った。声なき声が、確かに聞こえた。
 それに、クー・フーリンは猛る。ならば進撃だ、敵の本拠地まで攻め込んで、主人の敵となるもの全てを根絶やしにする。

 彼の師が見れば惜しんだだろう。最期の戦いに臨む前、己の弟子は確かに『最強』だったのである。
 その『最強』を見た時、師はなんと言うだろう。クー・フーリンは己の槍を見た。そして、

「――は。未練か。このオレなら、飽きもせず鍛練を積んでるだろう師匠でも殺せそうなんだがねえ……」

 やれやれ、と首を振り、意識を切り替える。
 命令は下った。次なる獲物はローマ皇帝、その代名詞。

 ガイウス・ユリウス・カエサル。

 歴史上、比類なき名将にして、ローマ最大の野心家。ともすると神祖以上の強敵ともなりうる、史上最高峰の軍略家の一人であった。

 相手にとって不足はない。クー・フーリンは、燃えていた。








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