英雄猛りて進撃を(上)
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うむ。だがシェロよ、気づいておらぬのか。そなたがそうまで戦わんとするのは――この世界が、美しいものだと感じておるからではないか」
……何を戯言を。士郎は内心吐き捨てる。
――世界が美しい? 違う、そんなことは感じてはいない。むしろ、逆に世界の汚濁に吐き気すら覚えている。だから、
「……」
そこで、はたと思い至った。
士郎は世界の汚さを思い知っている。しかし――士郎は汚れを許せぬ性質だった。潔癖性なのだ。
汚いのは許せない、だから綺麗にする。俺がこの汚ならしい世界を、『俺が』耐えられる程度には綺麗にする。
そのために、世界を巡ったのだ。外道を働き俺の世界を汚す野良の魔術師を狩り、人を餌として見るのみならず惨と醜とを絡めて喰らう怪物を殺して回った。
苦しみ、喘ぎ、嘆く声と顔に我慢が出来なかったから偽善者と呼ばれても慈善事業を始めた。
俺のためにだ。俺の生きた証を残しながら、俺のいた世界が汚かったという事実を否定して回った。
一人の力に限界を感じて。手を取り合える仲間を集めて。環の力で世界を少しは綺麗にするべく、世界の汚れを掃除する。全ては俺のために。俺が認識する世界のためにだ。
(シロウさんは、まるで――)
ふと、士郎は己が死徒との戦いに巻き込まれる切っ掛けとなった、ある名もなき死徒の戯れのために拐われた一人の少女の言葉を思い出す。
(士郎。あんた、ほんと馬鹿ね――)
そして。心底仕方無さそうに苦笑して、暇があったら手を貸してあげると言ってくれた、お人好しの魔術師の声が脳裏に去来した。
――白野……遠坂……。
「……いや、そうか」
ネロ帝の言わんとすること、その真意を察し、士郎は納得した。
士郎は自分のために生きている。極論してしまえば、自己満足をするために生きているのだ。
――なのに、この胸には今、過去への悔恨が突き刺さっている。自分のために生きているのなら……それを捨て置くのはダメだろう。
俺は俺のために、後悔を残したままでいてはならないのだ――士郎はようやっとそのことに気づいた。
「……貴女に感謝を。どうやら気遣われたようだ」
「む、悟られてしまったか。余もまだまだのようだ」
ネロ帝は唇を尖らせ、やれやれと己の未熟を嘆くように肩を竦めた。本当に未熟なのはこちらなのに。
「――ふむ。回り道をしたが、悟られてしまった以上は直截的に言おう。シェロよ、そなたは何やら蟠りを抱えておるな? ならばそれを早くに解消せよ。余と肩を並べる勇者は、衒いなき眼を持っておらねばならん。曇りを晴らせよ、カルデアのマスター……いや、我が先達よ」
「――」
ほんとう、古代の王様達は、なぜこんなにも心に響くことを言えるのか。
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