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人理を守れ、エミヤさん!
英雄猛りて進撃を(上)
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リアにオルタ!」

 清々しい開き直りだった。常人には有り得ぬ思いきりのよさである。
 それに、一瞬士郎は憧憬の念を抱きかけたが、すぐに忘れた。彼女を世界に売り渡した当人が、何を恥ずかしげもなく憧れそうになっている。
 頭を振り、士郎は冷徹な思考を意識の裏で張り巡らせる。これで、ピースは揃っ――

「――と、その前に一つ、聞いておかねばならぬことがあったのだ」

 そんな、士郎の思考を断つように、ネロは士郎を真摯に見詰めた。その目に、士郎は思わず居住まいを正す。

「心して答えよ。一切の虚偽も許さぬ。もし偽りを述べるのなら、余が其の方らに与する約定はなかったものとする。よいな?」
「……ああ。俺に答えられることなら、なんでも聞いてくれていい」
「ではシェロ。問うぞ。――其の方、何ゆえに人類史を救わんとする?」
「……?」

 何を聞かれるかと身構えていなかったと言えば嘘になる。だからこそ、ネロがそんな一身上の行動理由を訊ねてくるとは思わず意表を突かれた。
 咄嗟に口を衝きそうになったのは、真実七割嘘三割の建前。それをなんとか呑み込み、士郎は瞑目した。
 ……他の誰かに対して嘘を吐くのはいい。だが彼女にはアルトリア達と同じように、真実だけを話すべきだ。それが俺に示せる唯一の誠意だろう。

 士郎は意を決し、自らの本音を話した。

「俺が人理修復のために戦うのは、これまで生きてきた中で、俺と関わった全てを無為なものにさせないためだ。俺が知るモノには価値があると信じている。ああいや――飾らずに言えば、俺は俺のために人を救うんだ。そうすることが、俺の生きた証になると信じてるから」
「なるほどな。己のため、と来たか。それは究極的な意味では真実であり、シェロの中では偽らざる本音なのであろう。――だが違う。それは違うだろう。シェロ、そなたは今、余に嘘を吐いた(・・・・・)な!」

 なに、と俺は目を剥いた。嘘偽りなく本当の気持ちをさらけ出した、なのにそれを偽りだと? 何を根拠に否定する?

「余はローマ皇帝である!」

 それが根拠だった。陰謀渦巻く華美と暗躍の都で生きてきた皇帝の、華やかなだけではない人間の醜さを知るが故の……魂の審美を判ずる眼力だった。
 皇帝は男の独善を見抜いていた。自分本位な在り方を感じていた。しかし不快ではない、彼の定義する自己が、かなり広義の意味を持つが故に醜悪さを感じさせないからだった。
 だが、そのエゴを広く感じることへの違和感があった。故に問いを投げたのだ。そして今、ネロ帝の中で確信が固まる。

「其の方の胸の内、しかと聞き届けた。自覚なきが故に一度は許そう。だが二度はない。答えよ、そなたの言う自分(・・)とはどこまでを言う?」
「徹頭徹尾、この俺一人に終始する」

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