卑の意志は型月にて最強
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運なことに頭の切れる歴戦の勇士だ。これを見てみなよ、彼の経歴をまるっと纏めた資料だ」
ダ・ヴィンチはカルデアが収集したとおぼしき俺の過去を記した資料を懐から出し、ロマニに渡す。その用意のよさに俺は微妙に嫌な気分になった。
ロマニは医療機関の人間だったからか、詳しく俺の活動記録を把握していなかったのだろう。ざっと速読するだけで目を点にしていた。
……複雑なものだ。本人を前にそんな物を持ち出されるのは。
嫌そうに顔を顰める俺を尻目に、ロマニは感心した風に呟く。
どこか安心したように。
「……士郎くんは掛け値なしに善人なんだね、やっぱり」
「やめろ。そう改まって言うことか。ダ・ヴィンチが言いたかったのはそんなことじゃないだろう」
「そうさ。ロマニ、大事なのは彼が善人かどうかじゃない。読んでて気づかないかい? 彼は何度も外道な魔術師を狩っている。つまりそういった人間に対する嗅覚が備わっているのみならず、魔術協会から咎められないよう、保身を計れる計算高さがあるということさ。そんな彼が、己が潔白の証明を疎かにするはずがない。あるんだろう? 士郎くん。君には自分の証言の正しさを証明する物証が」
何もかも見通したような言葉に、俺は苦笑した。なるほど、頭の出来が違う。この男ほどの智者には、俺如きの浅知恵など無意味らしい。
肯定するように頷いて合図を出そうとすると、ふと資料を眺めていたロマニがあれ? と声を出した。
「? どうしたロマニ」
「いや、これ……なんか『殺人貴』とか書いて――」
ぐしゃ。
ぬっと腕を伸ばしてロマニの前にある資料を握り潰す。ああっ! と声を上げるロマニを俺は黙殺した。
「――無論抜かりはない。俺への疑いを張らす証拠はきっちり確保してある。……マシュをこの場から外してくれたことには感謝するぞ、ロマニ。あまりあの娘には見せたくない代物だからな」
言って、今度こそ俺は合図を出した。
何もなかったはずの場所に、突如、深紅のローブを被った暗殺者が現れる。
ぎょっとしたように体をびくつかせたロマニと、感嘆したように口笛を吹くダ・ヴィンチ。
「見事な気配遮断だ、この私が全く気づかな……ああなるほど。それは確かにこれ以上ない物証だね」
感心したように頷いたダ・ヴィンチは、しかしそれを見て表情を真剣なものにする。
ロマニが呆気に取られたように目を見開く中、アサシンは肩に担いでいたものを、無造作に投げ出した。
それは、人型の化け物、人外の存在。
レフ・ライノール。そう名乗っていた男の、魔神柱とやらへの『変身途中』の遺体だった。
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