約束された修羅場の士郎くん! 3
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きた。
彼は、恐らくマスターとしての適正が極めて高い。合理的でありながら時として非合理的に物事を考え、結果として最善を掴む。実戦経験は豊富で、硬軟併せ持った思考能力を持つが故に物腰に余裕があり、対人関係に支障を来たすこともない。話してみたところ思想は善に傾き、余程歪んだ者でもない限り問題なく戦力として活用できる知性もある。加えて、かなりの戦上手でもあるな――アサシンはもう一つの指示を思い返し、胸中にて独語した。
『不慮の事態を想定し、大聖杯の真下に伏せて周囲への警戒を怠るな』
……特異点という異常地帯では、常に想定外の事態が起こり得る。名将の資質とは、そういったものへの備えを怠らないこと。
何があるか分からない――分からないということは戦場では最大級の危険であるのだ。そういったものに備えるのは当然である。
『予想外だったから防げなかった』というのは言い訳にもならない。未知のトラブルに対するカウンター措置を用意するのは武装集団としての鉄則であった。
そういう観点から見ても、衛宮士郎はマスターとして申し分ない。彼なら上手くやるだろうとアサシンが信用できるほどに。
(大聖杯の真下で待機か。位置も見晴らしもいい。ここからならマスターの戦闘も、作戦領域に侵入しようとして来る存在も見通せる。……唯一警戒すべきものが、最も近い位置にある聖杯の泥とはね。皮肉なものだ)
下手に聖杯への注意を切れば、時折り溢れてくる泥に呑み込まれてしまう。そんな阿呆のような末路を晒すわけにはいかない。
ことが人類史に関わる重大事である。この場にいる全ての者に失敗は許されず、特異点を修復し、定礎を復元するためならこの一命を賭す価値が充分あった。
(さて。お手並み拝見だ、カルデアのマスターさん)
この身を捨て駒とする用意はあった。用いるか用いぬかはマスターが決めることだ。そこまでは関知しない。
熱のこもらないアサシンの視線の先で、冬木最後の戦いが繰り広げられていた。
――流石に強いな。
不遜だが、俺も頭数に入れると三対一になるというのに、黒い騎士王は一歩も退くことを知らなかった。その奮迅はまさに獅子の如し。彼女の実力をよく知る俺ですら瞠目するに値した。
左腕は折れたままだというのに、押されているのはむしろこちらの方。このまま両腕をセイバーが取り戻したら、きっと戦局は絶望的なものとなる。
だが、妙な気分だった。俺は黒弓に次々と矢をつがえ、目標に射ち込みながら独語する。
視界が拓け、心が澄み、頭が冷たい。なのに胸は熱く、自身を俯瞰する視点にブレは微塵も現れない。
限界は近い。指は固く、魔力も集中力も底を突きそうだ。……
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