それでいいのか士郎くん
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記録を共有することになったのだ。
――よもやこの私が、な……。
聖杯に侵され、黒く染まり、属性の反転した我が身ですら微笑をこぼしてしまうほどの驚きだった。
まさか平行世界で自分がこの時代に召喚され、仰いだマスターを女として愛する可能性があったなど、まさに想像の埒外の出来事であったのだ。
黒い騎士王は鉄面皮を微かに崩し一瞬だけ微笑む。だが、それも本当に一瞬だけ。騎士王を監視する者も気づくことはなかった。
蝋のような病的に白い肌、色の抜けた金の髪、反転して掠れた黄金瞳。
ぴくりともせず、黙って聖杯を見つめ続ける。
その絶対悪を無感動に眺め、佇む姿は彫像のようであった。
この特異点の黒幕とも言える存在の傀儡となって以来、ただの一度も口を開かずにいた騎士王は――その時になって漸く、氷のような表情にさざ波を立てる。
黒い鎧を軋ませて、この大空洞に至る入り口を振り返った。
――アーチャーが敗れたか。
それは、確信だった。鋼のような気配が乱れ、消えていくのをはっきり感じたのだ。
赤い外套の騎士、アーチャーはこの聖杯戦争で最も手こずった相手である。
もとが大英雄であるバーサーカーは理性無きが故に、赤い弓兵ほどには苦戦せず、その他は雑兵のような英霊ばかりであった。もしもあのキャスターが槍兵のクラスだったなら最も手強い強敵と目したろうが所詮はドルイド、反転して低下したが、極めて高い対魔力を持つ騎士王が正面から戦えば敵足り得るものではない。
そんな中、英霊としての格は最も低かったであろう赤い弓兵は、徹底してまともに戦わず、遅延戦術を選択して遠距離戦闘をこちらに強いた。マスターを失っても、単独行動スキルがあるためか逆に枷がなくなったとでも言うように――魔力が尽きるまでの二日間、黒い騎士王を相手に戦い抜いたのである。
見事である。その戦果に報いるように騎士王はアーチャーを打ち倒した。彼の戦いぶりは、それほどまでに見事なものだった。
そして、反転した騎士王の手駒となってからは、アレが騎士王の許に寄れぬように、門番となって守護する者になることを選んだ。その在り方は、騎士王をして見事と言えるものだった。円卓にも劣らぬとすら、胸中にて誉め称えたものだ。
そんな男が、戦闘をはじめて半刻もせずに倒されたとは、にわかには信じがたい。
――いや。あの男の持ち味は、冷徹なまでの戦闘論理にある。泥に侵され思考能力が低下すれば、案外こんなものか。
加えてあの場所は、弓兵として十全に戦える戦場でもなかった。ある程度の力を持つ者なら、あの男を打倒することは決して不可能ではないだろう。
しかし問題は、誰があの男を倒したかだ。
唯一の生き残りであるキャスター、アイルランドの光
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