卑の意志なのか士郎くん!
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卑の意思なのか士郎くん!
黒化した弓兵の射程圏内を脱し、俺とマシュは円蔵山の洞窟に突入した。
薄暗く、大火に呑まれた街にはない冷気が漂っている。だが、目には見えなくとも、濃密な魔力が奥の方から流れ込んできているのがはっきりとわかった。
聖杯が顕現しているのだ、とかつて冬木の聖杯を目の当たりにしていた俺は確信する。
ちらとマシュを見る。……戦うことが怖いと思う少女を、戦いに引き込まざるを得ない己の未熟を呪う。
先程のアーチャーは、間違いなく英霊エミヤだ。俺が奴ほどの戦闘技能を持っていなかったために、こうしてマシュを戦いに駆り立てざるを得ない。
霊基という壁がある、人間がサーヴァントに太刀打ちできる道理はない――そんなことはわかっている。だが理屈ではないのだ。戦いに生きた英霊エミヤと、戦いだけに生きるつもりのない俺。差が出るのは当然で、守護者として様々な武具を貯蔵し、戦闘記録を蓄積し続けている奴に勝てる訳がないのは当たり前だ。なのに、俺は自分の力を過信して、ある程度は戦えるはずだと慢心していた。
そんなはずはないのに。サーヴァントという存在を知っていたのに。なんたる愚かさか。先程も、マシュが宝具を擬似的に展開していなければ、俺は死んでいただろう。
俺の戦いの能力は人間の域を出ない。固有結界とその副産物である投影がなければ、到底人外に立ち向かうことはできなかった。固有結界という特大の異能がなければ、俺は切嗣のような魔術師殺しとなり暗殺、狙撃を重視した戦法を取っていただろう。そして、それはサーヴァントには通じないものだ。
俺は、確かに戦える。しかし必ずしも戦いの主軸に立つ必要はないのだと肝に銘じなければならない。今の俺に求められているのはマスターとしての能力だ。強力な1マスターではない、必勝不敗のマスターになることを求められているのである。
勝利だ。俺が掴まねばならない物はそれしかない。
この身にはただの一度も敗走はない。しかし、これからは不敗ではなく、常勝の存在として君臨するしかなかった。それはあの英霊エミヤにも出来なかったこと。それを、俺は人間のまま、奴より弱いままに成し遂げねばならないのだ。
故に――
「マシュ。これから敵と交戦するにあたって、俺の出す指示に即応できるか?」
俺は、マシュに問いかけた。
マシュを戦わせたくない、だが勝つためにマシュが必要だ。
……吐き気がする。なんて矛盾だ。その矛盾を、俺は呑み込まねばならなかった。
「戦いは怖いだろう? 怯えはなくならないだろう? 辛く、痛い。そんな物に触れたくない。そう思っているはずだ。……それでも俺はお前に戦えと命じる。俺を呪ってもいい、俺の指示に迷いなく従えるか?」
「はい」
即答、だった。
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