赤い彗星なのか士郎くん!
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そんなことはない。強がっているが俺も人間だ。長時間に亘って戦闘能力を維持するのは困難だし、相手がサーヴァントのような高位の存在だと手に余る。そういう時は、マシュに前に出てもらうことになるだろう。謂わば、俺はマシュの露払いをしているにすぎないんだ」
「……わかりました。でしたら、わたしは先輩の盾に徹します。こんなに大きな盾があるんですし、きっと護りきれるはずです」
「頼りにしてるよ」
言いながら、宥めるようにマシュの髪を撫でた。照れたように頬を染め、俯く様は可憐である。かわいい妹、或いは娘に対するような心境だった。
こうしてマシュを愛でておくのも悪くなかったが、生憎とそんな場合ではない。悠長に構えていられるほど、俺に余裕があるわけではなかった。ただ、マシュがいるから、安心させたくて普段通りの態度を心がけているだけで。
「……」
演技は、得意だ。望むと望まざるとは別に、得意にならざるをえなかった。
俺は道化だ。かつて対峙した英雄王は、俺を贋作者とは呼ばず道化と呼んで蔑んだ。……流石にあの英雄王まで欺くことはできなかったが、それ以外は俺の偽りの在り方を見抜けていなかったと思う。
だから大丈夫。マシュを安心させるために、俺は泰然として構えていられる。
――いかんな。特異点とはいえ冬木にいるせいか、どうにも思考が過去に引き摺られそうになってしまう。
頭を振る。振り切るように「行こう」とマシュに声をかけ、周囲の安全を確保できる地点を探す。
警戒は怠らず、しかしマシュのメンタルを気にかけることもやめず、歩くこと暫し。彼女と話していると現在のマシュの状態を知る運びとなった。
カルデアは今回、特異点Fの調査のため事前にサーヴァントを召喚していたこと。先程の爆破でマスター陣が死亡し、サーヴァントもまた消える運命にあったこと。しかしその直前に名も知らないサーヴァントがマシュに契約を持ちかけてきたという。
英霊としての力と宝具を譲る代わりに、この特異点の原因を排除してほしい、と。真名も何も告げずに消えていったため、マシュは自分がどんな能力を持っているのか分からないらしい。
……実のところ俺は、彼女に力を託して消えていったという英霊の正体に勘づいてしまっていた。
なんのことはない。彼女は自分と契約している。故にその繋がりを介してしまえば、彼女の宝具を解析するのは容易だった。
投影することの意義の薄い特殊な宝具――清廉にして高潔、完璧な騎士と称された彼の英霊が敢えて何も語らずに消えたということは、何か深い考えがあってのことなのかもしれない。
安易に真名を教えるのはマシュのためにならない、と俺も考えるべきか。
煩悶とした思いに悩んでいると、不意にこの場にいないはずの男の声がした。
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