泡沫の島 3話「カズ」
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掴まれ、そのまま地面に叩きつけられた。胃液が逆流するのが分かる。
その後も腕を折られ、足を潰され、鎖骨を砕かれ…。
そこで意識が暗転。最後に見た奴の表情は、異常なまでに普段と同じ、無機質なままだった…。
それが俺の初めての敗北。
不思議と、悔しくは無かった。そのかわり奴に興味が沸いた。初めて自分より強い少年。今まで特別だと思っていた自分が、急に小さく思えた。
聞いた話だと、奴はあの後も暴走してその場にいた八人のうち三人が死亡。あと三人が重軽傷。その場にいた教官三人も一人が重傷。後二人も軽傷を負った。
俺も当初は絶望的と半ば諦められてたらしい。今こうして生きているのは、まさに奇跡的だった。(余談だが、回復系の優れた能力者がいて、そいつのおかげで助かったらしい。誰だかは知らされなかったが。)
奴と狩野は事件の後すぐにまた移転したらしく、俺が戻ってきた時にはもういなかった。
あの事件から俺は変わった。
地獄のようなリハビリを経て、後遺症も無く前以上の力を身に付けるまで四年。俺は奴のことを忘れた日は無かった。
それは、別にいつか復讐してやろうというわけではなく、ただ単に、もう一度奴と会いたいと思ったのだ。
それから五年、俺は奴と再会する。逃亡者と、追跡者として。
φ
「っと…やべぇやべぇ。休憩しすぎたな。」
そろそろ昼だろう。俺は立ち上がり、シュウと落ち合う予定の場所へと向かう。
「あー…そう言えばあと二,三箇所残ってたんだっけか…。いいや、面倒くせぇ。暇なときにでもまた来ればいいだろ。」
とにかく昼飯だ。後でやっときゃバレねぇだろ。
「ったく、懐かしいこと思い出しちまったなぁ。まっさかあんときゃこうなるなんて考えもしなかったぜ。」
俺には目標が無かった。ただ、周りに対する優越感だけを求めて強くなった。今考えると、ガキだったんだな…。
「……勝てねぇわけだぜ…。」
長年追いつづけてきた少年と、そいつの周りにいる、俺が昔従えていた奴等とはまったく違う関係の仲間達。
不思議とこいつらとつるむことになっちまったが、それでも俺はこの仲間を気に入っている。
俺の顔色を窺うことなく意見を言い合い、一緒んなってバカをやる。
たぶん長くは続かないだろうこの日常をできるだけ続けたいと、全員が願っているはずだ。
だから。特に目標の無い俺は、奴の目標を手伝ってやろう。
例えそのために、
全世界を敵に回したとしても。
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