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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 14
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vol.21
【強者の傲慢=弱者の怠慢=大衆の無関心2】

 「私は先生に挨拶してくるから、貴方達は先に行って待っててくれる?」
 「はーい」
 プリシラを取り囲みながら施設内に戻った子供達が、パタパタと軽快な音を立てて食堂へと駆けて行く。
 いつもなら教育係の神父達が「廊下を走ってはいけません!」と雷を落としているところだが、今日に限っては神父達の上に立つ次期大司教も黙認を決め込んだ。
 今は声を掛けて足を止めさせるより、素直に離れてくれたほうがありがたいからだ。
 荷物を運び入れているベルヘンス卿達に戸締りを任せたプリシラは、玄関ホールの正面奥に設置された二股階段を右曲がりに上がり、階段の直ぐ横、左手側に在る一つ目の一枚扉を軽く二回叩く。
 「……こんばんは、先生。神父達の具合はどう?」
 「こんばんは、プリシラ次期大司教サマ。どうもこうも、ご覧の有り様ですわ」
 返事を待ってそっと入った部屋の中央には、聖職者姿で椅子に座っている女性が一人。脇に丈長の燭台を置き、膝の上に乗せたアリア信仰の教典を黙々と読んでいた。
 女性はプリシラには一瞥もくれず、古びた頁をぱらりと(めく)る。
 「んー……」
 プリシラも後ろ手で扉を閉め、女性の周囲をぐるりと見回してみるが。
 「……ちょっと、刺激が強過ぎたかしら?」
 左右と奥の壁に頭部を沿わせる形で置かれた計六台のベッド上でそれぞれ布団に包まっている神父達は、予定されていた来訪者に気付く様子も無く眠ったままだ。試しに一人一人の顔を間近で覗き込んでみても、全員石化したのかと思うくらい微動だにしなかった。
 「刺激、ねぇ……?」
 どうしたものかと後頭部を掻きつつ真横で立ち尽くすプリシラに、教典を閉じて立ち上がった女性が妖艶な笑みを浮かべ、背後から伸し掛かるように肩を抱く。
 「紙切れ一枚に仕込まれた悪戯とも呼べないちゃちな代物が、鼻血を噴いて倒れるほどの刺激になるなんて。安上がりな連中ですこと」
 「彼らは純情なのよ。さすがに、たったこれだけで半日近くも気絶しちゃうなんて、予想外すぎて私のほうが困惑中なのだけど」
 女性が持ったままの教典に中途半端な深さで挟まっている、幾つかの折り目が付いた長方形の小さな紙切れをするりと抜き取る。
 他ならぬプリシラが鳥の足に括り付けて孤児院へ飛ばしたそれの両面には
<i9550|32367>
 と、一方が黒インク、もう一方が口紅で書かれていた。唇の跡は勿論、プリシラ自身が紙に直接刻んだ物だ。

 実は、プリシラがロザリアに語った『孤児院勤務の神父達ほぼ全員が高熱で一斉に倒れた』という話に偽りは無い。その所為で子供達の仕事が余計に増えたのも事実だ。
 ただ、その原因を作ったのは寒さを増し始めた北風でも正体不明の病でもなく、孤児院
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