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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十九話来訪者は告げる
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ものであった。
 内務省を実際に運営していたのは五将家に恭順して中央から旨味を吸おうとした公家上りの者達と旧領に張った利権を守ろうと五将家に認められようとする旧諸将家の重臣上りの者達であり――衆民の自治機構が成熟し、万民輔弼令により公然と地方行政が衆民によって行われるようになると衆民が実務の主流を担うようになった。
 元来政治的に面倒な組織であった皇室魔導院の変質に気をとられている間に州警務局独自に五将家が望んだ旧諸将家の反動活動家や急進的民本主義者への対応といった形で高等警察を発足し、それは速やかに“全国一体の原則“という省令の名のもとに”執政府の武器”として“国内最大の防諜機関“として集権化されることになった。
故に〈皇国〉の警察組織は天領土着の諸将家と衆民から産まれた組織であり数少ない集権化された警察組織である高等警察はまさしく衆民―それも地方土着の貴族的な権威に冷ややかな諦観を抱いている者達―の牙城である。
例え豊久の義理の父である弓月由房が州政畑と警察畑を行き来した内務省の実力者であったとしても全面的な支援を受けるには長い時間を必要としたほどである、

 つまり、である。内務省の他の部署ならともかく高等部を名乗る実務畑の人間がこの庁舎に現れるとしたら――それに絡むのは非常に面倒な事柄なのだ。
「ちょっと待ってください。中央省庁の皆様が集まるのは良いとして私はここにいる必要は――」

「守原と駒城に関わる案件だ、貴殿がいないと困る、馬堂中佐」
「申し訳ありませんが、弓月参事官閣下からも前線に関わるお話となれば、と」
「だいたいここにいる顔触れを見れば虎城で動けるのはお前だけだとわかるだろうに逃げるな、もうすぐ大佐の二十八歳」
「そうだそうだ、貴様がいないと困る」
 四方の砲火を浴びて豊久は口の中に大量の苦虫を注ぎ込まれたような顔つきをして包囲殲滅を甘んじて受けとめた。
 三人は本当に話してよいのかと理事官と警察官僚に目を向けるが二人とも黙って先を促したことでまずは自分から、と豊地は咳払いをした。
「まずは私の要件からですね。10月半ばに予定されている限定的反攻作戦――要するに六芒郭救援作戦についてですが、護州軍の担当指揮官が決定しました」

「ほう、誰ですか?」
 恐らくは大いに関わる事になる豊久が合いの手を入れる。
「鎮台副司令官――若殿、守原定康少将です。参謀長は私が担当します。九月半ばまでには参謀部の編成を終えます」
 空気が完全に氷結した。豊地大佐の能力に不足があるわけではない――がその神輿になる人間が問題だ。
「ちょっと待ちたまえ。定康閣下が指揮を――責任をとると?」
「はい、理事官閣下。その通りです」

「おいおい待て待て――何を考えている」
 三崎が額の汗をぬぐいながら肉厚な手を振るう
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