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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十九話来訪者は告げる
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みつけるだけで済ませてくれるでしょうが――楽にはならないでしょうね。前線はいつでも人手不足です、今回の龍州における後衛戦闘で龍州軍が手酷く損耗しましたから後備の使える人間はそちらにも流れます」

「龍州軍は最後まで勇敢だったと聞いている」「彼らが泉川で勇気を示さねば私は死んでいました。おそらくは第三軍の半数も同様です――恨み事など言えません」
 豊久は目を伏せた。泉川で血を流した数万の者達には自分が死んでも返しきれる貸しがある。そのうち何人が帰らぬものとなったのか――。
「とはいえ落ち着いたら一度は帷幕院にいっておきたいのですが」
 いつ落ち着くのか、という事はもはや言葉にせずとも一種の冗句として将校連の間では受け止められている。あるいは将校という職が鬼のそれに近づいているからなのかもしれない。

「陪臣格といっても身が重いからな、貴様は。北領で民草の村を焼いた事を衆民の大半はもう忘れた。西原も駒城も重臣団は貴様に多大な借りを作った。大佐で生徒には回れんだろう、教官役で研究に従事するような――っとようやく来たか」
 廊下からよく響く特徴的な杖の音が聞こえる。大馬場町では雑談を打ち消すだけの威をもって認識される音色だ。
「待たせたな二人とも」
 理事官が杖に縋りながら現れた。その後ろには二人の男たちをひきつれている。 一人は二人も見知った鋭い目つきの参謀飾緒をつけた中年の男であり、もう一人はがっしりとした体つきと不釣り合いなのっぺりとした顔つきの男だ。顔だけを観れば三十過ぎにも見えるし全体を観ると四十半ばにも見える。
「どうも、閣下」
「父上、もとい理事官閣下」

「あぁ二人とも楽にしてくれ――さて、本題だ。こちらは軍監本部戦務課の豊地大佐と警保局高等部の青山警視正だ。我々に提案があるらしい。まとめて聞いたほうが良さそうなのでな」
 紹介された二人が黙礼する。室内にいた二人も答礼するがそれはややぎこちない。

だがそれは守原家の懐刀の一人である豊地大佐に対してではない、また藤川の身分に対してでもない、警視正は待遇としては大佐と同格である。皇都や州都の中枢部を担当する警察署の署長や、地方警務局の主要部長、警保局であっても主要課長が任じられる階級である、決して権限としても見劣りするものではない。
だが凡そあらゆる国家においてそうであるように、陸軍と水軍は歴史的に対立し、陸軍と警察は出自と権限の問題で争っていた。
 そもそものところ、内務省は五将家が天領自治を中央から統制する為に創設された役所であった。だがその為にかかる費用があまりに膨大である事と互いにどの程度中央に比重を置くか測り兼ねていた事――“五将家体制の基盤とは家門の持つ陸軍力である”という思想が常識であり、政治とは常識を基盤として動くものである――からその実態は鄙びた
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