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勇者たちの歴史
西暦編
第九話 リミテッド・オーバーA
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からまともに受けた。
 後はまるでピンボールのように何度も弾き飛ばされ、成す術もなく地面に墜落する。
 
 ――――これで、終わりなのか……?

 死ぬかもしれない、という事実に恐怖は感じなかった。
 仰向けのぼやけた視界が白く染まっている。その内の一体でも多く道連れにしてやろうと放してしまった刀を探る手が、異変に気付いて止まった。
 
「な、に……?」
 
 困惑する若葉をよそに視界の白が晴れていく。
 彼女が起き上がり意識がはっきりした頃には――――周囲に溢れていたバーテックスの大群は一体も残さず消えていた。

「逃げた、のか……そんな、」
 
 馬鹿な、という声は音にならない。
 勇者を恐れて逃げた、数を失ったから撤退した、という理由はあり得ない。若葉がどれだけ殺そうと、バーテックスは全く変わらず襲い掛かってきた。そんな化け物が、倒れ伏した敵を見て逃げるという選択肢をとるはずがない。
 あれらは、殺せたはずの若葉を放置してこの場を去ったのだ。

「ふざけるな……貴様らに、多くの罪なき人々に牙を突き立てた化け物にかけられた恩など、呪いと何も変わらない……!!」

 その事実を認めて、生き延びたことへの喜びや安堵よりも怒りと憎悪が湧き起こる。
 多くの人々に恐怖を、痛みを、苦しみを与え、命を奪ってきたバーテックス。あれらに相応の報いを受けさせるために、若葉は勇者としての訓練に邁進し、力をつけ、その果てに例え刺し違えたとしても一体でも多くのバーテックスを殺す、と決意を固めていた。
 その決意を、踏みにじられたように思えた。

「何事にも、報いを……私は……」
「乃木、若葉さん、だったか」

 突然、かけられた声にハッと思考が止まる。
 顔を向けると、そこに冬木の勇者代理が立っていた。

「無事、じゃなさそうだな、その足。歩けるか?」
「え? あ、あぁ……大丈夫だと、思います」
 
 そう答えてから、若葉は男の惨状に気づいた。
 左手は血に染まり、全身ぼろきれの様になった勇者代理はホッと安堵の息を吐いた。

「そうか、なら先に戻っていてくれないか。もうすぐ結界も消える、ここは危険だ」
「いえ……同行します。あなたを四国の結界内へ誘導するまでが、私たちのお役目ですから」
「それは……いや、だがな……」

 当たり前の返答のつもりだったのだが、男の顔に微かな焦りが浮かんだ。
 何か言いかけては口を閉ざす。若葉を先に帰らせたいのだろうか、だんだんと表情が深刻になっていく。
 理由は分からないが、彼を放置して帰ることなどできるはずがなかった。勇者として譲歩するつもりのない若葉の意思を感じたのか、先とはニュアンスが違う重いため息を溢す。

「……説明が前後したな。きちんと話す、その
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