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勇者たちの歴史
西暦編
第九話 リミテッド・オーバーA
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る速度で行われるとあっては、投影する武装を選んでいる暇すらない。そしてバーテックスに決定打を与えられないまま、士郎の魔力と体力は確実に削られていく。反対に、バーテックスの動きは時間が経つにつれて精度と速度が増してきているように思えた。
 時間は、敵に味方している。
 時間稼ぎが目的だというのに、あまりに不条理な話だ。

「そう簡単に、攻め切らせると……、はッ……思うなよ」

 だが、悪くもない。
 強がりでもなく、士郎は冷静にそう結論づけた。
 既に、冬木の住人が転移してから五分以上。既に喧騒は遠く、目視で確認しなくとも避難が順調に進んでいることは分かる。
 それなら、膠着した戦いにもまだ意味がある。
 
「あと少しなんだ。それまでは俺に付き合ってもらうぞ、化け物」

 無造作に魔剣を構えた青年が、巨人を模した尖兵と激突する。



 繰り返される戦闘の余波に、小さく悲鳴が上がる。
 反対に言えば、悲鳴が上がるだけですんでいる。初めは振動のたびに竦んで動けなくなっていた冬木の住民たちは、怯えつつも懸命に四国へと歩を進めていた。

「…………、」

 護衛についていた若葉は、僅かな苛立ちを覚えていた。
 計画は、一応順調といえる。
 結界は想像以上に強固で、バーテックスの侵入をほとんど許していない。例外的に防壁を抜いた数体も、護衛についた勇者三人で問題なく対処できている。
 結界内に唯一残存する進化体は、冬木の護り手が押し留めている。
 仮に、彼が――衛宮士郎が倒れたとしても、精霊の力を宿した若葉と千景が二人でかかれば、避難が完了するまでの時間は十分稼げるはずだ。
 何も問題はない、あと数分の内に避難は全て終わる。
 無力な人々を狙って無数のバーテックスが集まっていても、結界の内側に入ってこれないのなら問題ではない。
 運よく入ってこれたとしても、少数であるのならば問題にならない。
 勇者よりも強大な力を振るうバーテックスであっても、避難に差し障りがないのなら無理に相手をする必要はない。

 …………目の前の怨敵(バーテックス)に、報復を受けさせることも叶わないとしても、か。

 不可視の障壁に体当たりを続けるバーテックスの姿は、数体ならば滑稽に映るだろう。
 だが、それが数十、数百ともなれば人間を怯えさせるには十分だ。
 恐怖に震える人間たちに、ガチガチと口に似た器官を鳴らしながら殺意を振りまく忌々しい尖兵たち。荷重を加えられた結界が軋み、異様に鳴動する。恐怖に竦む人間の姿を嘲笑うようなバーテックスの気配が、募った憎悪と怒気をどこまでも煽り立てる。
 
「乃木さん……少し、離れ過ぎてるわ」

 少し険のある声で我に返る。
 気づけば、集団はずいぶん遠くに移動していた。先頭はも
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