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渦巻く滄海 紅き空 【下】
十九 開演のブザーが鳴る
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力だからこそ、我愛羅を最も理解している。
同じく疎まれた存在だからこそ、彼の歩んできた過酷な道を知っている。


ぼろぼろとナルの、透き通るような青い瞳から大粒の涙が零れてゆく。それは空から降り続ける雪の結晶にも、深海の真珠にも見えた。
キラキラと煌めいて我愛羅に降り注いでゆく。


「……なにが人柱力だってばよ…!偉そうにそんな言葉でオレ達を呼ぶな…!そんなふうに言われて、我愛羅が何を思っていたか、何を感じていたか…!考えたことないのか…っ」


原っぱに、ナルの激昂が轟く。心からの叫びだった。
彼女の嘆きは、我愛羅の中に一尾を入れた砂の忍びであるチヨにはとても耳が痛い言葉だった。





砂隠れの里の為にと、自分が今までしてきたことは間違っていたのかもしれない。
ならば、せめて、今だけでも、正しいことをすべきではないのか。

たとえ──己の命を懸けようとも。








決意を秘めた瞳で我愛羅を見据えたチヨは、戦闘を終えたばかりのふらつく身体を駆使して、遺体の許へ向かう。

【己生転生】。
己の全チャクラを媒介とすることで、術者のチャクラが魂に変換され、対象者に生命力を分け与える禁術だ。


悔しげに泣くナルの横を通り過ぎ、何もできずに俯くいのの肩をぽんっと軽く叩く。
顔を上げたいのは、自分を押し退けて我愛羅に手を翳すチヨを見て、ハッと顔を曇らせた。

サソリを見逃してしまい、チヨの得物である【父】【母】の傀儡をも奪われてしまった。
その後、ナル達の許へ急いでいる道中、いのはチヨからこの禁術の事を聞いていた。


サソリの両親の傀儡に命を吹き込む目的でチヨが開発した術。
死者を生き返らせるという大きなリスクを伴う為、人道的理由から禁じられていた術だが、術を開発したきっかけである傀儡を奪われたと嘆くチヨからの話を前以って耳にしていたいのは、彼女が今から我愛羅に何をしようとしているのかわかって、顔色を変えた。



「チヨ婆さま、その術はまさか、」

言い淀むいのを制して、チヨは優しく笑顔を浮かべる。
皺が刻まれた柔和な眼差しに宿る決意の色に、いのは何も言えなかった。


だが、サソリとの戦闘直後故に、チャクラが圧倒的に足らない。いのから禁術の話を聞いたナルは苦しげに喘ぐチヨの傍へ寄ると、手を差し伸べた。


「オレのチャクラを使ってくれってばよ、ばあちゃん…!!」

チヨの霞みかける視界に、ナルの両手が映る。
ゆっくり顔をあげると、ナル自身も疲労しているはずなのに「オレってばチャクラだけはありあまってっからさ…!」と元気よく、へへっと笑ってみせた。だがそれが空元気なのを、チヨもいのもカカシも見抜いていた。


「頼む、ばぁちゃ
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