第五章
[8]前話
「弔ってやろう」
「そうしましょう」
「そこは任せた、わしは今から大安寺に行く」
「あっ、銭を返しにですね」
「行って来る」
こう言ってだ、彼は寺に銭を返した。そうしてから寺の僧侶に対してここに来るまでのことを話した。
するとだ、僧侶は橘に対して言った。
「それは奇妙なこと、しかし」
「それでもですね」
「経を唱えることはいいことです」
このことはとだ、僧侶は彼に答えた。
「それでは」
「はい、その金剛般若経をですね」
「これよりですね」
「百度唱えて宜しいでしょうね」
「経と場所をお貸します」
僧侶は橘に微笑んで答えた。
「そうさせて頂きます」
「場所もですか」
「南塔院に入られて下さい」
そこが経を読む場所だというのだ。
「経は読めましたね」
「字を読むことは得意です」
「それなら」
こうしてだった、橘は鬼達の為にだった。
まずは三人の名前を呼んでそのうえで大安寺の南塔院において金剛般若経を読みはじめた、その経を二日に渡って読み続け。
三日目の明け方に読む終わるとだ、彼の前にあの鬼達が尋ねた。
「よく唱えてくれた」
「百度よく詠んでくれた」
「よくやってくれた」
こう橘に言うのだった。
「お陰で我等は助かった」
「杖刑を逃れたぞ」
「あの経には我等を助ける力があるからな」
「しかもさらにいいことがあった」
「閻魔様は我等の飯の量も増やしてくれた」
「お陰で毎日たらふく食えておる」
そうもなったというのだ。
「いや、よいことだ」
「これでも全てお主のお陰」
「よくやってくれた」
「それでこれからだが」
「毎月六斎の日に功徳を収めて欲しい」
「食べものも供えてくれ」
橘にこうも言うのだった。
「御仏の為にな」
「これも御仏のお陰」
「だからそうしてくれるか」
「はい、この度のことはまさに御仏のお陰」
橘も鬼達にこう応えた。
「それならば」
「うむ、頼むぞ」
「我等も御仏に感謝しておる」
「それではな」
「そうさせて頂きます」
橘は大喜びの鬼達に頷いて応えた、すると鬼達は煙の様に消えた。
橘はこの後鬼に約束した通り六斎の日には徳を積み食べものを供えることをした、そうしたことをしてきたせいか九十まで生きたという。後にこの話を聞いた人々はそれは彼がこうしたことがあってのことかと考えた、奈良時代の不思議な話である。それもこれも仏の為せることであろうか。
三人の鬼 完
2018・8・17
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