第二章
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その干し飯を食っていく、そうしつつ橘に尋ねた。
「しかしお主落ち着いているな」
「もうすぐ死ぬというのに」
「しかも迎えに来た者を目の前にしているというのに」
「そりゃ驚いていますし怖いですよ」
橘は彼等に素直に述べた。
「わしにしても。ですが人は絶対に死にますから」
「だからか」
「そのことがわかっているからか」
「落ち着いているのか」
「人間何時死ぬかわかりませんし」
それにというのだ。
「絶対に死にますから。ですから」
「だからか」
「わし等を前にしてもか」
「もうすぐ死ぬのに落ち着いていられるか」
「旅の途中で死ななくてよかったです」
まさにというのだ。
「ですから」
「それでか」
「よく摂り乱す者がおるが」
「そこはよいことじゃ」
「まあそういうことで、では里に帰って銭を返して」
それからのこともだ、橘は鬼達に語った。
「女房と息子夫婦にも別れを告げて弔いの用意を整えてもらって」
「そうしてか」
「そのうえでわし等について行くか」
「冥土に行くか」
「そうします」
やはり落ち着いて言う橘だった、実際彼も怖く思っている、だが自分でも落ち着いていると思っていた。
そうして干し飯を食っているとだ。
鬼達は食い終わったからだ、彼等の間でこう話をした。
「美味かったがな」
「しかしだな」
「うむ、足りぬな」
「牛が食いたくなったな」
「全くだ」
「あれは美味いからな」
「牛ですか」
牛と聞いてだ、橘はきょとんとなって言った。
「あれを食うのですか」
「そうか、今のこの国では食わぬな」
「牛は田畑で使うからな」
「食うことはせぬな」
「牛や馬を食うとなると」
それこそというのだ。
「もう飢饉で後はどうにでもなれ」
「そうした状況だな」
「とにかく食うものがない」
「そうした時に食うな」
「もうそこまでなったことは」
生きるか死ぬかの飢饉に遭ったことはというのだ。
「ないので」
「美味いがのう」
「焼いても鍋にしても」
「そうしてもな」
「ですが我等は食しませぬ」
牛はというのだ。
「それは」
「そうか、しかしな」
「わし等は牛を食いたくなった」
「どうもな」
「そこまで言われるなら」
それならとだ、橘は鬼達にこう申し出た。
「家に既に二頭いますが」
「そのうちの一頭をか」
「わし等に食わせてくれるか」
「そうさせてくれるのか」
「よかったら。これも縁でしょうから」
それならというのだ。
「如何でしょうか」
「いや、大きな牛はよいぞ」
「田畑に使うからな」
「そうした牛はよい」
鬼達もそれはいいとした。
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