フロックスの贈り物
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「くっそ、これだから遠方任務はクソなんだ!」
アレクセイ・ヤーコヴレヴチ・ウラシェンコは、コンテナの中から這い出るようにしながら悪態をついた。
蒸し暑いわ、揺れるわ、うるさいわでとてもではないが人間が輸送される環境じゃない。今年で齢が三十を迎えるオッサンにはなおさらきついものがあった。
場所は深夜の港。貿易港としての側面が強いのか、周囲には同じようなコンテナが整然と、しかしながら所狭しと並び立っている。遠くには一定の周期で回り続ける灯台の灯りが見えた。
吹き込む風は、祖国ヴァンゼクス=マギに及ばないながらも些か肌寒い。四季の国を標榜するだけはある。もっとも、マギの首都は巨大な移動要塞も兼ねているので特定の気候帯というものはないのだけれども。
今アレクセイが踏んでいる土は、ヴァンゼクスのさらに東にある小さな島国――日本皇国のものだった。
全世界を統一した空前絶後の大帝国・ラバルナ帝国が滅びて既に幾十年。彼の皇帝が生み出した、複数の主権国家を盟主の下に統合する超国家という支配体制が統治のスタンダートになる中にあって、残り数少ない純粋な「国家」を維持するその島国にアレクセイが降り立った理由はただ一つ。
即ち、侵略工作に他ならない。
ザッ、と耳につけたインカムにノイズが走った。厚い金属の箱から外に出たことで、電波が届くようになったのだ。
『――しろ……アリョーシャ、応答しろ――』
チャンネルを弄り、専用の回線に繋ぐと、女の声が自分を呼んでいるのが聞こえた。恐らく、先にこの国に潜入していたエージェントだろう。
「馬鹿、なんのためにコードネームがあると思ってるんだよ。新人か? こちらアリオール。予定通り皇国へ侵入」
『失礼した。こちらチョールナヤ。コンテナは別働隊で処理する。アリオール、これから端末に送付するルートに従って拠点に移動されたし』
「了解、っと」
返答の直後に、腕の携帯端末が震えた。送付されたマップには赤い線で通るべきルートが示されている。その終点には目標地が同じ色の光点で示されていた。
「意外と近いな」
『移動距離が長いと逆に捕捉されるリスクが高い。翌日コンテナターミナルの従業員に扮して自然に脱出しろ』
「へいへい」
しかしやたら偉そうなオペレーターである。思わず力の抜けた返事をしてしまった。
「しっかしお互い難儀な身分だよ。こっち側にいるってことはアンタ、普通人だろ?」
『私語を慎め。既に作戦は始まっている』
「どうせ誰もいねぇよ」
つれない返しを一蹴し、アレクセイは続ける。
「鉄脈術、だったか? アイツらのおかげで、こちとらおまんまの食い上げだよ」
ラバルナ帝国統治時代以降、戦争の手段は大きく変わった。
数多の兵が小銃を抱えて殺し合うのはもう時
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