フロックスの贈り物
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ルナ帝国だけだ。中にはこういった、超国家内の統治機構――つまり旧時代からあった「国家」の理想を掲げる連中もいる。
無論、そんなのは超国家自身にしてみれば反逆者たちと変わらない。結果、このようなテロリスト紛いへと身をやつす輩が大半なのだが、今回はどうもその口らしい。
「――精錬開始! 貴方に勝利を送りましょう!」
「精錬許可。仮初の栄光に酔い狂え」
男が叫ぶよう起動句を詠唱すると、どこからともなく返歌があった。鋭く周囲に目を向ければ、地下室の入り口辺りに八歳くらいの童女がいる。言うまでもなく魔女だ。
つまりは鉄脈術の発動。
チッ、と。
真一は眼を眇めて舌打ちをした。
「製鉄――『美酒から堕ちよ、秘めたる悪意の貢物』ッ!!」
地下室の暗がりから這い出る物があった。
見たこともない、奇妙な生物だった。四本の足と蹄が、辛うじてそれが全体的には草食動物をモチーフにしたモノだったことを窺わせる。だがそれだけだ。背からは植物のような枝が幾本も生え乱れ、尾は山鳥のような長い尾羽に。本来首がある位置には代わりに分厚くグロテスクな唇と蟲の複眼が貼り付いている。
『何これ……』
頭の中に楓花が呟く声が響く。
しかも、現われたのは一匹だけではない。
ず。
ずぞぞぞぞぞぞぞぞぉぉォォオオオオオオッッ!!!! と。
まるで蜂の巣をつついたようだった。
十や二十では利かない数の全く同じ怪物が、次から次へと産み落とされる。
「供犠動物をベースに、ちまちま集めた夾竹桃の猛毒と、内に秘めたる悪意の記号を加えたスペシャルブレンドだ。さあご自慢の刀で切ってみろ、すぐに悪意と毒が――」
「うるせぇよ」
鼻高々に語る男の言葉を、たった一言で斬り捨てる。
直後だった。
ずるりと。
大量のキメラが、一匹の例外もなく真っ二つに断ち別たれた。
「………………は?」
男の笑顔が凍る。
いつの間にか、照る刀身がさらに赤みを増していた。
その意味を理解して、男の顔から笑みが失せる。
「冗談だろ――?」
「残念ながら」
べちゃり。べちゃり。
真一の軍靴が、血の海と死骸の山の中を踏みしめながら、一歩ずつ確実に男へ迫る。横合いから追加で現われた怪物を悉く切り苛み、冷たい地下室に金臭い匂いを充満させながら。
「クソッタレの現実だよ」
脳天から股間まで、一直線に剣閃が走った。
人体解剖書のモデルに使えそうなぐらい綺麗に断ち切られた男は、それっきり何も言わなくなった。
魔女がいた方向へ目を向けると、そこ
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