フロックスの贈り物
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楓花を殺戮の舞台へ誘う道標。
即ち、敵の居場所が割れたのだ。
†
「楓花――精錬開始。幾重ニ束ネルハ其ガ鋼」
「ん、行こっか――精錬許可。心ニ纏ウハ其ガ刃」
鉄の祝詞が詠われる。
腕を覆う魔鉄の籠手が熱く脈動する。呼応するが如く楓花の身体が無数の光糸に解け、収斂し、一振りの刀へと変成した。藍を煮詰めたような深い色の刀身に、直刃の紋。白木の柄が初々しさを残す。
「製鉄――『明鏡止水、我等ガ濡刃二曇無シ』」
それが、真一と楓花の間に産み落とされた異能の名だった。
ざあっ! と視界が澄み渡る。鋭敏化された五感には一分の隙すらない。眼で耳で鼻で肌で舌で、周囲の状態を全て把握し、手中に収める。
それを形作る霊質界の風景は、生物非生物を問わず、目に映る全て鋼の世界。その鋼の一切を楓花という器へ閉じ込めることで、彼女を剣に、感覚を全能にせしめるというのが彼らの鉄脈術の正体だ。
そして、その得物を鞘走らせたと言うことはつまり。
「び、ぎゅっ!?」
暗闇から渾身の蹴りをたたき込まれて、太った男が豚のように喚いた。
「お前か。ヴァンゼクスの製鉄師とか言うヤツは」
底冷えするような、低い声を投げつける。
「まさかこんな近郊に堂々と根城を張ってるったぁ思わなかったぜ」
暗音から与えられた情報。それは、『製鉄師は千葉市の郊外に潜んでいるらしい』と言うことだった。
〇世代の活動に合わせて首都近辺にはアイヌや琉球系の製鉄師も少数ながら流入しているとはいえ、まだまだ大和民族以外は珍しいのがこの国だ。ヴァンゼクスも馬鹿ではなく、どうやら黄色人種とのハーフを寄越しては来たようだが、発音などの細かい差異から異邦人は容易に特定できた。
アジトにしていた家の、本来は倉庫やワインセラーなどに使ったのであろう冷たい地下室。そこに、彼らの本国との通信設備などがしっかりと残っていたのである。奴らがそこに入ってきた時を突いた。動かぬ証拠とはまさしくこのことだった。
ランタンの淡く温かい光を刃が反射する。いっそ妖しいまでに赤々としたそれは、夥しい血糊のようにも見えた。
「けほっ……ヴァンゼクス、だって……? はっ、馬鹿にするな」
だが、相手側の返答は些か予想の外だった。
「僕は、マギだ。マギの人間なんだよ」
「……独立派か」
思わず舌打ちを漏らす。道理で超国家が主導するには杜撰さが目立つ作戦だ。
超国家が統治のメインストリームに移って久しいとは言え、その実国民全員が諸手を挙げて万歳三唱しているわけではない。それが出来たのは後にも先にもラバ
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