フロックスの贈り物
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。
「よっし」
楓花が力強く頷く。そして暫定羊の謎生物を慈しむようにそっと抱きしめて、一言。
「真一、今夜はマトンだ」
「やめろよお前発想がいちいち猟奇的すぎるんだよ!」
思わず鉄面皮も崩れた。この相棒、食い意地が張りすぎている。だいたい誰が捌くというのか。自分か。まさか鉄脈術で捌かせるつもりなのか。
割と本気で引いてる真一を見て楓花は「ぶぅ」とむくれながら、
「じゃあどうすんのさー。保健所に出す? 暗音さんにマトンにされるだけだよ?」
「なんで俺の周りにはこんな凶暴な女しかいないんだ……」
古き良き大和撫子はどこへ行ったか。戦争の時代に生きる女性たちは、ちょっと逞しすぎる。
だが、それも事実である。よしんば誰かの飼っている羊(?)だったとして、こんな風にほったらかされている以上はきっと捨てられたと言うことなのだろう。だからといってこんな得体の知れない生物を引き取る者もいないだろうから、殺処分に回されるのは疑いようもない。
だからといって、見つけてしまった以上はこのまま放置するのも忍びなかった。
「飼うか」
「なるほど、太らせてから喰うと」
「お前はまずそこから離れろ」
結局、このナマモノを連れて帰ることに。
〇世代で動く人々には家賃が安く提供されるアパートが何軒かある。その一室が、真一と楓花が暮らす家だった。
ちゃぶ台の上に件の毛玉を乗っけて腕を組む真一。
「名前はどうしようか」
「リブ」
「お前それ食肉部位じゃねぇかいい加減にしろよ!」
ふざけてやっているならいい加減飽きてくる頃合いだった。
とりあえず名前は夕飯を摂りながら考えることに。
「おー、レタス食べてる」
「見れば見るほどに羊みてぇだな」
サラダからレタスの葉っぱを一枚つまんで楓花が毛玉に差し出していた。もそもそ頬を動かして食べてる姿が愛らしい。
ふりかけを掛けた白米を掻っ込みながら、マジマジとその不思議生物を眺める。
そんな真一の視線に気づいたのか、毛玉は小首を傾げながら「めぇ」と鳴いてみせた。
ので。
「メー太郎」
「真一もセンスないじゃん」
今度は相方から棄却の判決が下った。これで二審通過。最終審で差し戻しは避けたい。
「そういえばなんか羊の名前聞いたことあるよ。ドリーだっけ」
「それ確か鉄歴のクローン羊だろ? 短命だったらしいが」
「いいんじゃん?」
縁起が悪かろうと渋面を作る真一に、楓花はふわりと微笑んでみせた。
「大事なことって長く生きられることじゃないでしょ。例え期間は短くても、どれだけ幸せに過ごせたかが命の最終スコアだって、私は思うな」
じゃないと、人間より寿命が短い動物は全部可哀相ってことになっちゃうじゃん? と、彼女は小首を傾げる。
時々、楓花はこういう独特な死生
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