1st season
12th night
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確認する。旅人はまだそこに居る。
「よし、あと少し!ここさえ抑えれば……!!」
踏む足に力が入る。相手より長く、早くアクセルを。ただそれだけを。コーナーは眼前に迫る。
――100m──50m───10m───
「…………ッ!!」
フルブレーキ。全荷重が前輪にのる。タイヤは限界を超え、ABSがロック寸前のタイヤを回す。荷重の掛かった前輪がマシンの鼻先を動かす。一瞬の中、しかしゆっくりと荷重が右前輪に移る。タイヤはたわみ、トレッドは貼り付くように路面を捉える。マシンは進行方向へ眼光を刺す。
荷重の抜けたリアが膨らむ。弧を描き、コーナーのミドルラインを抜けて。
「これで…………!」
踏み抜いた。最高の一瞬。十分なトラクション。荷重が後ろに乗り、リアのスライドは収まる。そして最高のスピードで次のコーナーを駆け抜ける。ミラーの光は消えないが、近付いても来ない。
────勝った。天使はそう、確信した。
「…………どうだ、やってやったぞ」
芝浦JCT直進。その時だった。何かが当たるような激しい音が車内に響く。
「…………ッ!?」
同時にけたたましくマシンが震え、失速。ボンネットの隅から白い尾を引き、CL7がグラつく。天使は暴れるステアリングを必死に抑え、何とか真っ直ぐに保つ。
「くっそ!収まれっ、収まってくれっ……!!」
みるみるうちに車速は殺され、後ろから旅人が────
「奴が、来ていない!?」
そのままCL7は羽田線の入口で、止まった。
「………………」
呆然と天使は車外に出る。いくらこの時間のこの場所と言えど、止まってしまったらやるべき事は決まっている。無言のままトランクを明け、停止版を展開。急ぎ足で後方に設置し、発煙筒を焚いた。赤白い閃光が天使を照らす。それを確認した天使は携帯を取り出し、電話をかける。その表情は、憔悴を通り越して今にも掻き消えそうになっていた
「……もしもし、あぁ、俺だ。すまん、寝てたか?」
電話を終えると車内に戻り、項垂れる。ボンネットからは白煙が立ち上り、奇しくも終戦の狼煙となった。
「くそっ…………」
分かっていた。連続周回、それもかなり詰め込んだ末での全開バトル。マシンに負担が無い訳がない。その結果がエンジンブロー。あまりにもお粗末な。それより何より。
「アイツ……こっちを追ってこなかった……」
[気まぐれな旅人]は、芝浦JCTを右折。[流離いの天使]を追わず、C1に戻って行ったのだ。
「最初から俺とバトルする気なんか無かったって訳か……」
その事実が殊更に天使を打ちのめす。壮大な一人相撲を演じた挙句、マシンを壊した。その全てが、その結果
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