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戦国時代に転生したら春秋戦国時代だった件
第2章 項羽と劉邦、あと田忠 〜虞兮虞兮、奈若何〜
第7話 不思議の国の劉邦ちゃん
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臣。それが田忠の一般的な評価である。つまり、圧政者対民の味方、という分かりやすい構図が、民衆の支持につながっていた
 四つに、孤児という出自がある。名家連中よりも、よほど親しみがある。中華一の立身出世を果たした彼は、民草にとって、憧れの存在なのである。
 五つに、至高の美と呼ばれるほどの容姿と、不老の仙人。親しみやすさと矛盾するようだが、ある種の畏怖を抱かれていた。事実、田忠に倣い仏教に入信する者や神として信仰する者すらいた。


畢竟(つまり)、田忠は民に人気があった。張良は歯噛みする。繰り返すが、田忠が劉邦軍に入る影響は計り知れない。


 ――だが男だ。 


 韓信を除いて、劉邦軍の幹部は女性で占められている。
 女性が有能だから。というのも理由だが、一番の理由は、単に張良が男嫌いだったからだ。
 とはいえ、韓信を重用していることからもわかるように、男でも優れた人材ならば登用する分別はある。
 その選別眼は、男の方が厳しいのはご愛敬だが。


 韓信は、劉邦軍が欠く軍事の要であるが、政治には弱い。よって、張良と棲み分けができている。
 しかし、田忠は違う。伝え聞く逸話を考えるに、軍事のみならず政治でも活躍するだろう。
 だからこそ、危うい。果たして己が仙人を御し得るであろうか。自信家の張良といえど、自信がもてなかった。なにせ相手は、人理を超えた存在である。

「よろしくね〜、忠ちゃん!」

「は、劉邦様――」

「んもう、劉邦ちゃんでいいわよ!」

 悩む張良をよそに、主君はさっそく田忠と仲良くなっていた。忠ちゃん忠ちゃんと盛んに声をかけている。この人懐っこさは劉邦の美点である。能力的にはいまいちだが、どこか支えたくなる。そんな存在が劉邦である。

(くっ、早くも劉邦様に取り入ろうとするなんて! やっぱり男ってサイテーね!)

 劉邦に迫られたじたじとしている田忠をみた感想がそれだった。いかに天才軍師といえど、色恋では目が狂うのだろうか。 
 ともあれ、涼州軍が正式に劉邦の配下となったのである。
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