第1章 たった一人の勇者
夜襲
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ない。どこでいつ現れようとも、必ず迎撃に向かう必要がある。そうでなければ、取り返した領土をまた魔族に奪われてしまう。人間たちが魔族に全く歯が立たない以上、全ての街の防衛を僕一人で行わなくてはならなかった。
普通なら不可能だ。けど、『勇者クリストファー』には可能だった。あらゆる場所の魔族が分かり、そこにすぐさま向かう能力があった。
睡眠が中断されるが、それも問題なかった。睡眠を取らずとも、身体能力に支障は出ないからだ。
そう、身体能力には。
最初にいた山村に戻った僕は、村民に見つからないように静かに部屋に戻った。すぐにベッドに横になる。肉体に疲労はなくとも、精神にはあった。
目を閉じると、直前に戦った魔族たちの顔が思い浮かぶ。そこにはいくつもの表情があった。仲間を失ったことへの義憤、死への恐怖と絶望、残虐者への憎悪。そして、断末魔の絶叫が耳に残っていた。
──彼らは人間と変わりなかった。長命であり、魔法の扱いに長ける。圧倒的に強大な種族だったが、倫理観があり、同族への仲間意識があり、何より感情があった。人間である僕にも理解できる価値観を、彼らも持ち合わせていた。
そんな彼らを敵対しているとはいえ、毎日毎時間殺して周るのは、はっきり言って苦痛だった。罪悪感があった。できることなら、殺したくはなかった。
それでも、彼らを殺さなければならない理由がいくつもある。いくつも、いくつも、いくつも、いくつも。
「……やめよう」
思考を放棄して、深く息を吐く。意識を重たい闇の中に沈める。
できることなら、次は目覚めたくない。そうとさえ思った。
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